指が触れた音*Chansung story ページ7
*チャンソンside*
俺は帯が波打ったこの文庫本をテーブルに置いたまま、店内から外に降る雨を見つめる。
雨は、突然降りだした。
だけど俺に降った雨は、今降りだした雨ではない。
日本で雨に降られた俺は、今だこのソウルの街でも濡れたままで。
そうして泣きだした空の下を俺はいつまでも独り歩き続けている。
目の前に運ばれてきた湯気が立ち昇るカフェオレの揺れる水面に映る顔は、俺では無い誰かの顔。
俺の指が、テーブルの上で手に取られることを期待している不揃いな茶色の砂糖をシュガートングで摘まみ、ぽとり、ぽとりと落としていく。
それをくすんだ銀色のスプーンでゆっくりとかき混ぜれば、水面はまた次第に姿を変える。
カフェオレボウルにそっと口をつけ、それからゆっくりと目を閉じた。
カランカランとドアベルが鳴った。
誰かに呼ばれた気がして閉じていた目を開ければ、濡れた髪で空いてる席を探す君と目が合った。
降りだした雨のお陰で、このカフェは既に満席で。
それが解った君の目が淋しそうに伏せられ、ゆっくりと俺に背中を向けた。
行かないで。
何故だか喉から出かかったその言葉を俺は飲み込み、咄嗟に立ち上がり声を掛けた。
『相席でよければ、どうですか!?』
『ありがとう』
そう言って小さく笑った君の顔が、俺の胸に残されたままの傷を刺激した。
今だ痛むこの胸は苦しすぎる。
君の目の前に運ばれてきたのはパンケーキ。
『あったかい』
独り呟きながらそれを幸せそうに頬張り食べ進めていく君から時折響くのは、カフェオレに浮かぶ氷の音。
そんな目の前の君と、あの日から読み進めることが出来ないままでいるこの文庫本とを、俺は交互に見つめるばかりだった。
君のお皿が下げられた時、突然俺にに聞こえてきた言葉。
『その本。貴方に読んでもらうのをずっと待ってますよ』
俺が驚いて、君を見れば。
君の瞳は俺の瞳を見据え、それからゆっくりと二度頷いた。
そして君は濡れた鞄から取り出した文庫本を静かに読み始めたんだ。
すると。
俺の耳には君が捲る頁の音だけが聴こえてきて。
あぁ。
漸く思い出す。
俺はこの音が好きだったことを。
そして君から聴こえるその音に重なるもう一つの音。
だけど、気がつけば音は一つだけになっていた。
俺は赤い色の紐を文庫本の最初の頁に挟んだ。
そして覗いたカフェオレボウルからは白い底が見えていた。
俺の水面を揺らしていた雨が。
今上がった。
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エイジ(プロフ) - 月花さん» お返事遅くなりましてすみません。オーラスから未だ感情が上手く整理出来ずにいます。ひたすらテギョン一色で書き綴った一話でしたが、しがないオクッパの心の内をさらけ出してしまいました。私が次にテギョンに会えるのはドーム。この目にしかと彼を焼き付けてきます。 (2016年7月17日 1時) (レス) id: d1cda00c22 (このIDを非表示/違反報告)
月花(プロフ) - 久しぶりにエイジさんのお話が読めて嬉しいのと、このお話はテクペンのエイジさんだからこそのお話だなぁと思いました。その距離も関係性も分かってはいるけど、時折辛くなりますよね。店員さんが何を言ったのかが、気になります。切ないけど素敵なお話有難うございます (2016年6月2日 16時) (レス) id: 2db226cba0 (このIDを非表示/違反報告)
エイジ(プロフ) - じゅんたさん» コメントありがとうございます(*^^*)余りにおひさしぶりの更新ですみません。まだまだ、書きたい気持ちはたくさんですので、のんびりとお付き合いいただけると嬉しいです!! (2015年12月2日 18時) (レス) id: 9c27d96a79 (このIDを非表示/違反報告)
じゅんた(プロフ) - 久しぶりのエイジWorld堪能しました。ありがとうございます(人´∀`) (2015年12月2日 6時) (レス) id: 017662d541 (このIDを非表示/違反報告)
エイジ(プロフ) - りえぞうさん» コメントありがとうございます。嬉しいです、オクッパ同士ですね♪これからも、テギョン溺愛で行きますので、また遊びに来てくださいね!!私も、初めまして♪こんばんは♪(*^^*) (2015年8月16日 23時) (レス) id: 9c27d96a79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エイジ | 作成日時:2015年6月7日 22時