<npr>陰陽無用<rn受短編集> (ページ10)

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上書きと嫉妬心<sgrn> ページ10

「蘭たん、何しとるん？」
リビングのソファーに体を預けながら、左手の爪に右手で持った黒いキャップを動かしている蘭たんに暇潰し程度に聞いてみる。
「マニキュアだけど…え、何知らんの？」
「いや知っとるけど、普通そういうのって女の子がやるもんやろ？」
そう言うと蘭たんは「考え古臭くない？」と鼻で笑った。別に古臭くはないやろ…まぁ、でもそれも偏見かもしれんな。訂正しとこ。
そう思いながら、蘭たんの隣にそーっと近づいて、揺れないように慎重に座る。
それと遠くからじゃあまり見れんかった、机の上の道具達がよく見えるようになった。
足の間をがっぱーする奴とか、キラキラしとるラインストーンとか、シールとか、あと除光液と、ちっちゃな小瓶に入れられたマニキュア。
マニキュアの色は赤に黄色に紫に、ピンクなんてのもある。今蘭たんは何色塗ってんのやろ。出来れば黄色を塗ってほしい。
そう下心を沸かせながら、蘭たんの手元を覗く…と、見えたのは青色と緑色。
「あのー、蘭たん？」
「何？今集中してんだけど」
「…何で、その色なん？」
「別に、何色塗ってようが良いでしょ」
そう言って蘭たんは作業に戻ろうとする…いや、何だっても何も…
「良くないわぁ！」
「は？ちょ何急に…」
何か、黄色じゃなくてその色が選ばれたってのがどうしても腹立たしくて、除光液を手にとって、青と緑に彩られた爪にぶっかける。
蘭たんの悲鳴と文句と怒りが耳から聞こえてる筈なのに、ひっそりと流れるBGMのようにしか思えない。
「ちょっと、何すんのよ？！知らないかもだけどこれ乾かすのにめっちゃ時間掛かるしコットンとかにそれは染み込ませて「蘭たん」…………」
思っていたよりも、冷たくて重い声が出て自分でもビックリした。けど、蘭たんが悪いんやで。
「黄色で、塗って」
「…何で」
「ええから、なぁ」
詰めよって、黄色の小瓶を渡すと一つ溜め息をついてから蘭たんは爪を黄色く染めた。
言い知れない、満足感を感じたような。
「ええやん」
「…嫉妬かよ、いい年したおっさんが」
蘭たんの文句を聞き流して俺は、上書きされたその手に満たされた欲を放す為口付けた。