No.050 吉野さんの場合 ページ12
______
吉野さんは私を助手席に乗せて、小野家の敷地を出た
いつもはリムジンにしか乗ったことがない私にとって、
助手席というのはとても魅力的な場所だった
運転する吉野さんの横顔がこんなにも近くで見れて、
周りの景色がすごく速く流れる
シートベルトっていうのは、少し窮屈だけど
「俺の顔、見過ぎでしょ」
「そう？運転する横顔なんて、滅多に見れないもの」
「カッコいい？」
「うーん。いつもよりはね」
「はは」
吉野さんがどこに行こうとしているのかは知らないけれど、
私は何も心配していなかった
彼が私を危険なところに連れて行くはずがないし、
まさか駆け落ちしようとしているわけもない
なぜなら、私たちの乗る車のすぐ後ろには、
他の執事たちが乗った車が追いかけてきているのだから
紀章さんの時も、悠一さんの時も、いまも、
私は決して、彼らとふたりきりにはなれないのだ
「うしろ、着いてきてるね」
「そりゃあな。もしこのまま行方不明にでもなったら、
執事は叱られるどころじゃ済まない」
「クビになる？」
「さあ。牢獄行きかも」
「えっ……ねえ、他の人はいまどうしてるの？」
「どうって……谷山や中村とAが恋人ごっこしてる間、
俺らはみんな、気が気じゃなかったよ。
Aがもし、本当に俺らのうちの誰かを好きになったら
どうしようって思ってな」
「みんなもしかして、私を口説き落とそうとしてる？」
吉野さんは少し笑って、何も答えなかった
当初の目的は、恋という気持ちを理解するためだったけれど
みんなは最初から、私に自分のことを
好きになってもらおうとしていたのだろうか
江口さんへの気持ちが恋なのか、違うのかを知りたくて、
こうやってみんなに協力してもらったけれど、
もし今後私が、執事の誰かを好きという結論に至っても、
別に構わないような気がしてしまった
下の名前を呼ぶと恥ずかしそうに返事する吉野さんの横顔
私の名前を呼んでくれる吉野さんの声
赤信号で止まるたびにこっちを向いてくれる事
いつもはきっちり締められてるのに今だけ緩めてるネクタイ
それらを好きって思う気持ちは、恋とは違うのかな
______
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 25人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ライ(プロフ) - 珠璃さん» そうなんですね、了解です！ありがとうございます！ (2022年5月20日 17時) (
レス) id: 8d8b7851e6 (このIDを非表示/違反報告)
珠璃(プロフ) - ライさん» 御二方いらっしゃるんですけど元々は中村悠一さんと小西克幸さん目当てで読ませて頂いてました！ (2022年5月20日 14時) (レス) @page21 id: 80f8fa9bb0 (このIDを非表示/違反報告)
ライ(プロフ) - 珠璃さん» 初コメントで優しいお言葉をくださり、ありがとうございます、本当に嬉しいです。これからも頑張ります！ちなみにですが、誰を目当てに読み始めたとかはありますか？ (2022年5月20日 2時) (レス) id: 8d8b7851e6 (このIDを非表示/違反報告)
珠璃(プロフ) - 更新ありがとうございます、執事達との婚約パターンも見てみたいです、この作品を知ってから更新されるのが待ち遠しいです。気長に待ちますので、作者様のペースで更新なさってください。これからも楽しみにしています！ (2022年5月20日 0時) (レス) @page21 id: 80f8fa9bb0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：TOA | 作成日時：2022年5月3日 2時
