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「おやすみの挨拶は済んだね？」
「ええ」
それを聞くと、私はお香の手を引っ張って夜に飛び出した。
「私、逃げないのよ」
「朝が追いかけてくるもんだからさ」
さらりと口から出た台詞だったがさすがにキザすぎたかな、と内心で照れ臭くなった。しかし、彼女はくすくすと愛らしく笑って、私の手を握り返してくれた。
途中で朧車のタクシーを拾った。私たちが酔っていないのを見て、運転手もといその朧車は安心したようであった。
「ひとっ飛びでお送りしますよ、お嬢さん方」
私たちは顔を見合わせて笑みを浮かべた。お嬢さん、ですって。
車内は静かで、狭かった。周りの目もない。朧車も、私たちがどういう立場にある者なのかは分かっているのかもしれないが、話しかけてはこなかった。
ぴったりとくっつく腿が、腕が、手のひらが、肩がじんわりと体温を共有してゆく。これくらいはいいだろうと、私は彼女の腰を抱いて首元に顔を埋めた。焚きしめた香の落ち着いた花の匂いがうっすらとして、私は瞼を閉じる。
お香は柔らかい指先で私の額を優しく撫でた。穏やかすぎて少しくすぐったいほどであったがそれでも心地よさの中にいて、半分眠っているような不思議な気分だ。
「眠い？」
「……ねむ、眠く、ない」
どっぷりと浸かっているそれは眠気とは似ているものの少し異なるような気もした。口を動かして声を発するのも億劫で、ほとんど零れ落ちたと同じ私の言葉を彼女は何も言わず受け止めてくれた。
「今日は甘えたなのねぇ」
しばらく狭間に揺蕩っていると、彼女がようやく発した言葉にゆったりと耳を撫でられた。私に語りかけている訳ではなく、独り言に近いようであった。
「こんなにかわいくて、食べちゃいたい」
「……いいよ」
その言葉はすとん、と私の胸に落ちて見事に腰を据えてしまった。
「私のこと、全部食べてくれよ、お香」
もぞもぞと面をあげて上目遣いで窺うと、彼女の瞳が急に潤んだように見えた。つい、と細い指が私の頬に滑り、顎を爪先でくすぐる。ほんの少し持ち上げられた。
「もうそろそろ到着しますよ！ お待たせしましたね」
口が重なろうかというとき、朧車の声が陽気に響いた。
「はあい」
お香は顔を持ち上げ、返事をした。惜しいところを逃したが、楽しみはあとで取っておこう。そう考えて私は下車の準備を始めた。
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長谷夏子(プロフ) - noche/ノーチェさん» ノーチェさんコメントありがとうございます。本当に励みになります、とても嬉しいです。更新を迷っていましたが、まだ続けようと思います。こちらこそ、ありがとうございました！ (2022年9月27日 23時) (
レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
noche/ノーチェ(プロフ) - この作品をもっと早く見つけたかったです。わたしは百合が大好きですが全く百合の夢小説が見つからなくてへこんでた時にこの小説を見つけました。すっごいこの作品の虜です、遅いかもしれませんがこれからも更新を無理をしない程度に頑張ってください。長文失礼しました (2022年9月26日 20時) (レス) id: 958fbd2e0b (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - ぽんさっく。さん» コメントありがとうございます。忙しく更新が遅いですが、鋭意執筆中です！いつも読んでいただいているのにお待たせしてすみません。 (2022年4月6日 16時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
ぽんさっく。(プロフ) - 続きが気になります！どうか続きを書いて頂けないでしょうか<(_ _*)> (2022年4月3日 23時) (レス) id: 2341f2a9e5 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - 花っち�擦気�» ご感想ありがとうございます。言葉選びには気をつけたつもりだったので、とても嬉しいです！励みになります！ (2019年10月17日 13時) (レス) id: 28dcf1f165 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：長谷夏子 | 作成日時：2018年12月23日 0時
