甘ったるい彼等④【短編集】(雪男) (ページ32)

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翔太 side

タクシーが止まっても降りようとせず固まるAちゃんの肩を抱いてそのまま自室に連れて来たはいいけど、今度は玄関から動こうとしなくて互いに一時停止中。

あんな後で拐うみたいな真似したのが良くなかったか…？

いやでも、一人にしたらアイツに見つかるかもしれなかったし…

あ、大将んとこに返したらよかったのか…

玄関のタイルを見つめるAちゃんを見つめながらぐるぐると頭を働かせていると、ついに彼女が口を開いた。

「すみません…
　私なんかのせいで渡辺さんを巻き込んでしまって」

『いや、俺がしたかっただけだから』

「ほんとにごめんなさい
　いつも周りに迷惑掛けてばっかりで…私が馬鹿だから…
　私なんかいない方が……」

『…その"いつも"が何なのか俺にはよく分かんないけど
　Aちゃんは馬鹿じゃないし、なんも悪くない。
　俺本当にムカついたんだよ。好きな人を罵られるってこんなに
苦しくてこんなに悔しい事なんだって初めて知った。』

「…ぇ？」

『あの店があんなに明るくて繁盛してんのはAちゃんのお陰だよ、常連の俺が保証する。

大将も客もみんなAちゃんが大好きだから、居てくれなきゃ困るんだよ。だからもう"私なんか"なんて言うな』

あーもう……

なんか非日常を経験しちゃったからアドレナリン出てるわ
頭で思考する前に感情で喋っちゃってるけど今はいい

「ぁの、、」

『こんな時に言うべきじゃないかもしれないけど、俺Aちゃんが好きです。男が怖くなってたり、恋愛に対して前向きになれない時かもしれないけど、俺にチャンスがあるならこれからも守らせてほしい。』

お願いしますと頭を下げて手を差し出すと真っ白な彼女の手首が目に入って、そこにくっきりと残る手形が先刻彼女が味わった恐怖がどれほどのものだったかを物語っていて、思わず出した手を引っ込めそうになった。

ほんとにこんな時に言うべきじゃなかった…

後悔しはじめたとき、ふっと手のひらが包まれる感覚がして
パッと顔を上げると目を潤ませるAちゃんの姿

『……いいの？』

「ずるい、ですかね、、私、渡辺さんに縋るなんて…」

『いや、どう考えても狡いのは俺でしょ。
　絶対に守るし、絶対に幸せにするから
　俺と一緒に死ぬまで生きてよ』
　

初めて腕の中に納めたAちゃんは小さくて、でもきちんと温かくて、この温もりは俺が必ず守り抜くと心に決めた。

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