甘ったるい彼等④【短編集】(雪男) (ページ31)

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翔太 side

＜………あ？＞

『やめろよ』

掴んだ腕に力を込め、ついでに彼女の首を押さえつけていた手も引き剥がす。

「はぁっっ…」

気道を押さえられていたからろくに空気を吸えていなかった彼女が崩れ落ちるのを視界の端で確認して、抱き止めたい衝動を抑え目の前のクズに向き合う。

＜んだよお前＞

『何でもいいだろ』

＜はぁ？ヒーローごっこなら他所でやれよ
俺たち愛し合ってるところなんだから邪魔すんな＞
　
『は？』
　
＜な？Aそうだろ？＞

頭がボーッとするのか返事はおろか、小さく震えることしかできないAちゃん

＜返事は！！！！！＞

「ぁ、、、は、、」

『いい、喋んなくて』

＜なんだよお前。お前はコイツの何な訳？＞

"何"か
名前を付けるならまだただの店員と常連客かもな

なんて考えていると両手を掴む俺の腕を振りほどこうと暴れだすから更に力を強め、全身を使って壁に押し付ける。よかった、舞台終わりで鍛えんのハマってて。見かけより鍛えられていたらしい自分の筋力にちょっと感心した。

『お前こそ何だよ。愛してる人のこと罵って暴力振るって？
　そんなカスにAちゃんは勿体なさすぎるんだけど』

＜は？＞

『俺の腕もほどけないくせに、そんな弱っちい力で捩じ伏せて
　言うこと聞かせて楽しい？幸せ？

　…あぁ、お前に聞くのは間違ってんな

　ねぇAちゃん、コイツと居て幸せ？』

お願い

首を縦に振るのなら俺の余計なお節介だったと引くから

半ば懇願するようにAちゃんを振り向くとふるふると横に揺れる首が見えた。

『…お前、今すぐ消えないなら警察呼ぶから
　次俺とAちゃんの前に現れても同じ
　
　分かったらさったと失せろ』

大きな舌打ちを残して腕を擦りながら去っていく後ろ姿を見届けて、震える肩にそっと触れた。

「ぁっ…」

『大丈夫。大丈夫だから』

「ふっ……」

ぽろぽろと流れ出した大粒の涙を拭って良いのか分からなくて
でも少しでも安心してほしくて、羽織っていたジャケットを彼女に掛けて、捕まえたタクシーに二人一緒に乗り込んだ。

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