甘ったるい彼等④【短編集】(雪男) (ページ29)

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翔太 side

『はぁ』

「いかがですか？」

『…わっ！』

勇気も無いし、話しかけることすらできない意気地無しは
ぐずぐず通い続けるしかなくて、そんな状況に思わずため息を吐くと、可愛い声がすぐそばで聞こえてびっくりする。

「すみません、驚かすつもり無かったんですけど…
　ホット烏龍茶お待たせしました」

『や、ごめんなさい、俺ビビリで…』

「ふふ、意外ですね。
　お魚、重たくなかったですか？」

『あ、めっちゃ美味いです』

「よかったー！私、秋ならこのお魚が一番好きなんです
　秋鯖ファンがまた一人増えました！」

嬉しそうにくふくふ笑って、またお声掛けくださいねー！と
去っていくAちゃん

"一番好き"ね…
うん、俺も今日からこいつが一番だわ。

それからは時々聞こえてくるAちゃんの明るい笑い声に振り向いては俺も喋りたいな…なんて、満足に受け答えも出来ないくせに理想だけは高い自分に呆れつつ黙々と箸を進めていった。

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＜まいどありがとねー＞

『美味かったっす、秋鯖』

＜おー、時期が終わるまでは出すと思うからまた来てよ＞

『はい。あ、の、、Aちゃんはもう上がりっすか？』

いつも俺が帰る頃には暖簾も仕舞われて、客も俺一人になっていることが多いから、会計の時に少しだけ二人きりで話すその時間を楽しみにしていたりするのに

今日は珍しく大将がレジに立っているから思わず余計なことを尋ねてしまう。

＜ん？あぁ…いや、ほんとはもうちょっと時間なんだけどな＞

『そうなんすか？』

＜野暮用っちゅーか、俺も何とかしてやりたいんだけどよ…＞

眉間にシワを寄せながら妙な返答をしてくるから胸がザワついた

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＜まだ外に居ると思うけど、あんたも芸能人だろ？
厄介ごとに首突っ込むのはおすすめしないよ＞

『そう、っすか』

あんたのとこのおすすめはいつも最高であてにしてるけど
今回ばかりは外れだな。

こんな意気地無しだけど、たまには自分で決めてみるのも悪くない。

『ご馳走様でした。また来ます』

＜あいよ、頑張ってな＞

その頑張れも俺の良いように取るから。
詳しいことは何も話してくれなかったけど、あの言い淀む感じがどうにも気持ち悪くて、このまま家に帰るなんてできなくて、店を出ると彼女を探して歩き回った。

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