甘ったるい彼等②【短編集】(雪男) (ページ33)

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you side

大人になって自然消滅を経験するとは思わなかった。
出張中も帰ってきてからも彼からの連絡は一本もなくて、つい癖で買ってしまった彼の好きそうな現地のお土産は今も冷蔵庫の片隅で眠ってる。

もう別れてる気持ちでいるなら連絡はできない、でも最後に…と向井さんに彼の安否確認をしたら「俺に任しとき！」と電話口で明るく言われ、あぁまだなんとかなるのかもしれないと小さな期待の光が胸に灯った。

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唐突に家を訪ねてきて必死に言葉を紡ぐ彼を、本当はどうしようもなく愛しいと思っているのに、こじれてしまった心が素直な言葉を言わせてくれなくて涙が出る。

『もらってほしい』と手渡されたプレゼントボックスの中には綺麗なネックレスが入っていた

『ネックレスってね指輪やピアスなんかより強い意味があるんだ。二度とこんな悲しい思いをさせないから、俺ともう一度やり直してくれないかな…？』

「…うん、私も意地張ってごめん。ね、つけてくれる？」

『もちろん』と嬉しそうに後ろに回ってくれる彼に『その下も見てくれない？』と言われ、ボックス内のクッションを外す。

「どこの鍵…？」
クッションの下には見慣れない鍵がひとつ

『俺たちの家の鍵』

「え？」

『勝手に決めちゃってごめん。同棲の話してたでしょ？
記念日にサプライズしたくてさ、内見とか色々回ったりしてたら連絡するの怠っちゃって、結局Aのこと悲しませた』

『本末転倒だよね』と苦笑する彼がどうしようもなく愛おしい。

「涼太のバカ…ちゃんとあの時に話してよ」

『そうだね、ほんとにごめん』

「…ね、ここ南向きの角部屋？」

『へ？あ、うん、もちろん』

「オープンキッチンで、トイレは広い？」

『うん、お風呂にテレビだって付いてるよ
　今度の休みに見に行こう？』

「うん。けど暫くサプライズは要らないからね」

『俺サプライズ下手だったみたい』

「んふっそんな真顔で言わないで、笑っちゃう」

『えぇ…俺結構凹んでるんだよ？』

「そうだね、ロイヤルなのにね(笑)」

『笑ってくれるならいいよ、何でも…
　でももうこんな失敗しないから絶対』

基本は器用で何でもそつなくこなす涼太だから、こんなに情けない姿はもう見られないんだろうなと思う。

でも彼の最初で最後を貰えるなら、どんな経験も良い思い出に変わるんだから、失敗なんてほんとはひとつも無いんだけどなぁと落ち込む彼にキスをひとつプレゼントした。

Fin.