甘ったるい彼等②【短編集】(雪男) (ページ26)

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you side

その日はやたらと身体が怠くて、ふらついてしまっていたのか
先輩に午前で早退するように声を掛けられる

「すみません…お先に失礼します」

気を抜けばその場にへたり込んでしまいそうになるのを何とか堪えて、その足でバスに乗って産婦人科に向かった

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医「うん、妊娠はしてないね」

「そう、ですか…」

医「疲れが溜まって身体がSOS出してたみたい
　 Aさん、頑張ってるんだね」

心も疲弊していたのだろう、先生の優しい言葉に涙が溢れてしまった

優しく背中を支えてくれるナースさんに連れられて別室で点滴を受けると、身体は必要な養分を取り込んだことで少し回復したけど、心は逆に重くなったように感じて辛かった

　
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帰宅して、蓮の好きなグラタンとグリーンサラダを作っているとまた涙が出てきてしまう。拭いても拭いても流れてくるから、もう拭うのを諦めてボロボロ泣きながら料理した

子どもが欲しかった訳じゃない。むしろ今のタイミングだと困ってしまっていたと思う。子どもを選ぶか、蓮との関係を選ぶか、そんな難しくて残酷な選択を迫られるはずだったから

でもどこかで、大切そうにその子を抱く彼を想像してみたり
小さな手を握る彼はきっとどんな時よりも格好良いんだろうなってバカみたいに幸せなを未来を期待していた自分もいて。

安堵からなのか、落胆なのか自分でもよく分からなかったけど、涙を止めることはできなくて、でもこの気持ちを蓮に伝えることはもっと出来なくて『早く帰るよ』と連絡をくれたのも無視して早々にベッドに潜り込んだ

それからしばらくして、本当にいつもより早く帰ってきた蓮。
ペタペタと早足で歩き回る音がする

『お、いた』
『A…？寝てる？』

『今日もお疲れ様。愛してるよ、おやすみ』

起こすわけでもなく、顔を見るわけでもなく、そっぽを向く私の頭を優しく撫でて静かに寝室を後にする優しい蓮に、やはりこのことは自分の中で昇華させようと心に決めた。

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