68.糸師家の姉ちゃんの話・後編 ページ21
「……」
はぁ、とため息が聞こえた。
いつもより低い弟の声にビクリと身体を震わせる。
今から何と罵られるのだろうか。怖い。苦しい。
……私が自分で始めた物語なのに――。
「……バカ。バカすぎんだよ。Aは」
凛は、私の背中に手を回して私を、ギュ、と抱きしめた。
あたたかい凛の体温に自然と心が落ち着いていく。
「俺と兄ちゃんにAのことを見て欲しかった?……何言ってんだよ…。俺と兄ちゃんはずっとAのことしか見てねぇよ」
「え……」
凛の言葉に目を見開く。
凛は私の背中をポンポンと優しくたたく。
「……Aは、昔から自分の好きなことよりも俺ら優先にしてただろ。優しいよ。Aは」
聞いたことのない弟の声色に呼吸が落ち着いていく。
心があたたかくなっていく。
冷たかった手に、あたたかさが戻っていく。
「……今も、スペインに行ってる兄ちゃんのことずっと気にしてんだろ。毎月、塩こんぶ送ったりして…」
「……………………知ってたの?」
「……うん」
こっそりしていたはずなのにバレてたなんて。
恥ずかしくて体温が上がる。
「……姉ちゃんは、立派だよ。…だから、もう無理なんてしないで。もう、頑張らなくていいから」
肩がぬるい水で濡れていく。
……凛が、泣いているんだろう。
「…………………………私、ずっと怖かった」
掠れた声が病室に響く。
「いつか、凛と冴がどこか遠くに行っちゃうんじゃないかって」
「………………………………行かねぇ」
「………………うん。知ってる。でもね、怖かったの」
「……私の知ってる冴と凛はいつまでも子供で、アイス食べて寝ちゃうような子供だったから。…顔つきもどんどん大人びいて…サッカーしか見えてない2人が、怖かった」
「……だから、私がすごいことしたら凛も冴も私のこと見てくれるんじゃないかって…。……バカ、だよね。私…」
「……………………あぁ。バカだ」
ギュ、と凛はもう一度私を強く抱きしめる。
「………………そんなことしなくても、俺と兄ちゃんはAのことを見てる」
「………………うん…うん…」
凛の言葉にコクリと、何度も頷く。
それと同時に私も凛の背中に手を回して抱きしめた。
「………………凛、ありがとう。私を見てくれて」
ポタリと真っ白なシーツの上に雫が落ちた。
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湊(プロフ) - めんちさん» めんちさん、コメントありがとうございます!私もまだまだですので、一緒に頑張りましょ!💪 (6月26日 20時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
めんち - めっちゃ面白いです!私も夢小説かいてるんですけど国語力なさすぎるので湊様みたいに楽しいお話つくりたいです (6月26日 14時) (レス) id: 05dd0f2a4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:湊 | 作成日時:2023年6月26日 9時