検索窓
今日:28 hit、昨日:13 hit、合計:17,145 hit

68.糸師家の姉ちゃんの話・後編 ページ21

「……」

はぁ、とため息が聞こえた。
いつもより低い弟の声にビクリと身体を震わせる。
今から何と罵られるのだろうか。怖い。苦しい。

……私が自分で始めた物語なのに――。


「……バカ。バカすぎんだよ。Aは」


凛は、私の背中に手を回して私を、ギュ、と抱きしめた。
あたたかい凛の体温に自然と心が落ち着いていく。

「俺と兄ちゃんにAのことを見て欲しかった?……何言ってんだよ…。俺と兄ちゃんはずっとAのことしか見てねぇよ」

「え……」

凛の言葉に目を見開く。
凛は私の背中をポンポンと優しくたたく。

「……Aは、昔から自分の好きなことよりも俺ら優先にしてただろ。優しいよ。Aは」

聞いたことのない弟の声色に呼吸が落ち着いていく。
心があたたかくなっていく。
冷たかった手に、あたたかさが戻っていく。

「……今も、スペインに行ってる兄ちゃんのことずっと気にしてんだろ。毎月、塩こんぶ送ったりして…」

「……………………知ってたの?」

「……うん」

こっそりしていたはずなのにバレてたなんて。
恥ずかしくて体温が上がる。

「……姉ちゃんは、立派だよ。…だから、もう無理なんてしないで。もう、頑張らなくていいから」

肩がぬるい水で濡れていく。
……凛が、泣いているんだろう。

「…………………………私、ずっと怖かった」

掠れた声が病室に響く。

「いつか、凛と冴がどこか遠くに行っちゃうんじゃないかって」

「………………………………行かねぇ」

「………………うん。知ってる。でもね、怖かったの」

「……私の知ってる冴と凛はいつまでも子供で、アイス食べて寝ちゃうような子供だったから。…顔つきもどんどん大人びいて…サッカーしか見えてない2人が、怖かった」

「……だから、私がすごいことしたら凛も冴も私のこと見てくれるんじゃないかって…。……バカ、だよね。私…」

「……………………あぁ。バカだ」

ギュ、と凛はもう一度私を強く抱きしめる。

「………………そんなことしなくても、俺と兄ちゃんはAのことを見てる」

「………………うん…うん…」

凛の言葉にコクリと、何度も頷く。
それと同時に私も凛の背中に手を回して抱きしめた。



「………………凛、ありがとう。私を見てくれて」



ポタリと真っ白なシーツの上に雫が落ちた。

69.全てを伝える話・前編→←67.糸師家の姉ちゃんの話・中編



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (55 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
352人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - めんちさん» めんちさん、コメントありがとうございます!私もまだまだですので、一緒に頑張りましょ!💪 (6月26日 20時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
めんち - めっちゃ面白いです!私も夢小説かいてるんですけど国語力なさすぎるので湊様みたいに楽しいお話つくりたいです (6月26日 14時) (レス) id: 05dd0f2a4d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作成日時:2023年6月26日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。