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58.夏祭りの話 ページ11

巾着の中から手鏡を取り出して、ちょちょいと前髪を直す。

「…」

ガヤガヤと賑わっている人通りを遠目に見つめる。
中には私と同じように浴衣を着ている人もいた。

「…来ちゃったなぁ」

友達に言われたのでダメ元で誠士郎くんを誘ってみたら、なんと承諾してくれたのだ。

「…A。待たせてごめん」

「あ…」

いつもののんびりしている声が聞こえて上を向くと、Tシャツ姿の誠士郎くんがいた。らしくもなく汗もかいている。

「全然待ってないよ。行こっか」

誠士郎くんに微笑んで、人通りの方へと歩いていく。

「……待って。A」

「…?」

キュ、と浴衣の袖をつかまれた。
誠士郎くんの方へと振り返ると、誠士郎くんは頬を赤くさせていた。

「……それ、浴衣…似合って、る」

歯切れの悪い言葉をはいて、誠士郎くんは私の手を引っ張っていく。

「…誠士郎くん」

人混みに私の小さな声が紛れていく。
別に誠士郎くんに聞こえなくてもいいから。

「……すごく、嬉しい。そう言ってくれて」

――……私の中で気持ちに区切りをつけたくて。

「…」

彼に褒められただけでこんなにも気分が高揚している。
彼と繋がれた手に私の汗が滲んでいないか、焦る。

友達と話している時はあんまり実感が湧かなかったけれど。
多分、私は――。


「…A?」


誠士郎くんが私の名前を呼ぶ。
それすら、嬉しくてたまらない。
ずっと、ずっとずっと私の名前を呼んで欲しい。
誠士郎くんの声は、安心する。ずっと聞いていたい。

「……あのね。誠士郎くん」

初恋、なんだと思う。
ずっと、周りにいる男の子といえば冴と凛だったから。
冴と凛しかいなかった私の世界に誠士郎くんがやってきた。


『……アンタ、誰』


――私の初めてのお客さん。


『…よくできました』


――ただの店員とお店の常連客。


『…ねぇ、A』


――貴方が私の名前を呼ぶ度、安心した。


『よかった。やっと笑顔になった』


――面倒くさがりの貴方が私のことを気にかけてくれた。


「……うん。なぁに」


貴方の声が、表情が、全てが――…。


「……――好き」


夏祭り。
周りには、たくさんの人。人。人。
ムードも欠片も無いけれど、今、私の気持ちを伝えたかったから。

「…っ」

だからね、誠士郎くん。

貴方が今までで一番、目を見開いているのも。
耳まで染っている朱色も。
ポカンと開かれた口も。

――気のせいじゃないって、思ってもいいのかな。

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(プロフ) - めんちさん» めんちさん、コメントありがとうございます!私もまだまだですので、一緒に頑張りましょ!💪 (6月26日 20時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
めんち - めっちゃ面白いです!私も夢小説かいてるんですけど国語力なさすぎるので湊様みたいに楽しいお話つくりたいです (6月26日 14時) (レス) id: 05dd0f2a4d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2023年6月26日 9時

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