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45.優しい彼の話 ページ47

「…誠士郎くん」

スマホに目を落としている彼の名前を呼ぶ。

「なに?」

「…ありがとう。私と連絡先交換してくれて」

「別に。俺がしたかったから、しただけだよ」

そう言う彼に私は首を横に振る。

「ううん。それでも、嬉しいの。本当にありがとう」

私の信じていた凛を私が壊してしまって、その事実に私は押しつぶされそうになっていた。
だけど、そんな私を救ってくれたのは誠士郎くんで。
彼が気分転換に誘ってくれなかったら、私はまだ落ち込んでいただろう。

「……誠士郎くんってすごく優しいね」

小さな声で言葉を零す。
誠士郎くんは目を大きく見開いてポツリと呟いた。

「…そんなの初めて言われた」

「え。そうなの?」

「優しいなんて、言われたことない」

「そうなんだ…」

こんなに優しいのに…、と呟くと目の前にいる誠士郎くんの白い肌が桃色に染まっていく。

「…Aってさ、そーいうこと誰にでも言ってんの?」

「…?そーいうこと、って?」

ジトーっとした目を私に向ける誠士郎くん。
何が言いたいのか分からなくて首を傾げた。

「…はぁ。もういいや。めんどくさい」

誠士郎くんは諦めたようにため息をついてから、私に手を差し出す。

「…Aもそろそろ仕事戻らなきゃでしょ。かえろ」

「うん」

彼の手を受け取って、なぜか手を繋いでお店まで帰ることになった。

「…誠士郎くんって寂しがり屋なの?」

彼と繋いだ手をブンブン振りながら話す。
誠士郎くんはブンブン振られた手をうっとおしそうに見つめる。

「寂しがり屋?全然違うと思うけど」

「え、そうなの」

なら、なんで私達は今、手を繋いでいるんだろう?
よく分からない気持ちのまま、お店へと‎向かった。

❁︎

「誠士郎くんは今日、お店には来ないの?」

繋がれた手は離されて、冷たい風が私の手を冷やしていく。
誠士郎くんはコクリと頷いた。

「うん。今日はAに会いにきただけだし」

「えっ」

…この人、天然タラシなのかな?
むむむ…、と誠士郎くんを見つめる。誠士郎くんは「?」と頭にハテナマークを浮かべていた。

「…誠士郎くん、今日はありがとう。いい気分転換になったよ」

そう言って彼に笑いかける。
誠士郎くんもその口元を少しだけ緩ませた。

「それならよかった。じゃあ、また連絡する」

「…うん。ありがとう」

今日、誠士郎くんに会えてよかった。
凛に冷やされた心が誠士郎くんと話して少し暖かくなった気がした。

46.暑い夏の話→←44.連絡先を交換する話



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(プロフ) - もちうささん» もちうささん、コメントありがとうございます!これからもふたつのルートにご注目ください! (6月8日 19時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
もちうさ - 凛ルートと凪ルートがありますね!凛君推しなので結婚とか出来なくても事実婚なら出来ますね! (6月8日 13時) (レス) @page34 id: c2ca67a91e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - アルです!\(●°ω°●)/さん» アルです!\(●°ω°●)/さん、コメントありがとうございます!凪は私的にも好きなキャラクターなのでどんどん活躍させていきたいと思っています! (5月28日 1時) (レス) id: 8e39c25e39 (このIDを非表示/違反報告)
アルです!\(●°ω°●)/(プロフ) - そういえば糸師兄弟と凪は神奈川県出身だったなぁ…凪登場ありがとうございます! (5月28日 0時) (レス) @page17 id: f6a6e363df (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2023年5月19日 12時

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