第13話 「誰だ？」 ページ13
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柳の言葉を聞き終わる前に急いで頭を下げて走り出したAに柳は呆れたように笑った。廊下を走るなよ、と告げた言葉がAに届かないまま、Aは幸村の元へと走り出した。
職員室に辿り着いたAが血眼で幸村を探しても髪の毛一本すら見つからない。行く宛てがない、幸村がどこに行ったか検討もつかないAは言葉通り頭を抱えた。
幸村の事を何も知らないのだとAは気付いてしまった。
Aは何も知らなかった。幸村の事を真っ直ぐ見つめているようで、本当は自分の描く幸村精市越しに幸村を見つめていたのではないかと自己嫌悪に陥る。
校舎内を走り回り途方に暮れたAが避暑地を求めて向かった先は昼休みを幸村(悔しいが基本的に柳先輩もいる)と過ごしていた空き教室であった。好き勝手にエアコンの温度を調節できる空き教室は夏が訪れていようともどこか肌寒かった。
「あれ」
空き教室であるはずの教室の扉から明かりが漏れている。昼休みに電気を消し忘れたのだろうかと疑問を抱きながらAは扉に手を掛けた。ガラ、と音を立てて開いた扉に導かれるように先客がAの方へ視線を寄越した。
夕日に溶け込むような白い頬に藍色の髪の毛が気怠そうに被る。
綺麗なんて陳腐な言葉で片付けるには惜しい光景にAは息をするのを忘れていた。半袖のワイシャツから覗く無駄な贅肉のない引き締まった白い腕が微かに動いたように見えた。
Aが血眼になって探し求めた幸村は一度Aに微笑んだあと、自然な動きで日が暮れる窓の外に視線を移した。言葉の無い教室に冷房の音だけが虚しく響く。
彼は誰だ？
頬を掠める形容しがたい緊張感にAの背筋に嫌な汗が流れる。こちらを向いて口角を上げた幸村にAは初めて畏怖を覚えた。右手に収まったままのアイスココアの水滴が床に落ちた。
どうにかして幸村のナイフのように研ぎ澄まされた緊張感を脱したいAが幸村に近付くように足を進める。Aの思惑に気付いた幸村がそれに応えるようにAの方に体の向きを変えた。Aの細い右手が差し出された。大丈夫、大丈夫。
「どんな幸村先輩でも私は大好きですから！」
Aの暖かい手が幸村の手に触れる。一点の曇りもない笑顔を浮かべるAは幸村の手元に収まるアイスココアを満足気に見つめた。Aによって持たされたアイスココアの結露による水滴が幸村の手を濡らしていく。
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福原(プロフ) - ゆきもりさん» コメントありがとうございます❤︎そう言っていただけて光栄です(;_;)緩くではありますがぜひお付き合い下さい❤︎ (2022年7月29日 11時) (
レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきもり(プロフ) - 第1話から心奪われました...恋が始まる予感....更新楽しみにしています^^ (2022年7月28日 14時) (レス) @page3 id: 1e05fd341a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：福原 | 作成日時：2022年7月28日 14時
