第11話 「仰せのままに」 ページ11
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憂鬱なまでの梅雨前線は幸村の期待通り北上し、目眩がするほどの猛暑が幸村達を迎え入れる。学校指定である半袖のワイシャツが太陽の光を反射して幸村の頬を照らした気がした。
7月に入れば気温もグッと上がり、息をすることさえ苦しくなるほどの暑さが鬱陶しく、今年もこの暑さの中を仲間達と駆け抜ける事ができる事実が愛おしい。
「えっ幸村先輩19日からいないんですか」
そうなるな、と相変わらずの低く硬い声で相槌をうつ柳を見て幸村は感慨深い気持ちに駆られた。
立海の三強として恐れられ立海を頂点へと導いてきた柳と、真田と、そして他の部員達と、こうして熱い夏を過ごすのも、今年で最後だ。
「え、何でですか？まさか終業式も…」
「勿論だ。夏は短い」
Aを揶揄うように笑った柳の表情はどこか哀愁を帯びている。きっと彼も気が付いているんだろう、泣いても笑っても今年の夏で俺達の夏が終わってしまう事を。長く短い夏は俺達を捕まえて離さなかったのに、時が来たらお役御免だなんて慈悲がなさすぎる。
そんな所さえ、俺達は愛しく思ってしまうのだろう。
「やけに落ち込んでるね。俺達がいたっていなくたって、何も変わらないよ」
「幸村先輩何言ってるんですか？幸村先輩がいない学校なんて夏休みのない夏です」
そう言って若干不貞腐れながらおにぎりを頬張る彼女が年相応に見えて安心する。ひとつ季節が通り過ぎてもなお、彼女の視線は俺を追い続けた。
マンモス校が故に存在する空き教室で彼女と昼休みを過ごすのが当たり前になったのは夏が頬を掠める頃だったか。冷房が程よく聞いているこの教室は15人程度が収まる少人数教室だが居心地がいい。
細く小さな手に乗り切る程度のおにぎりを1つとパックのアイスココアを片手に彼女が柳を盾にして教室を訪ねてきたのが懐かしい。ズズ、と恥ずかしげもなく残りのアイスココアを飲むAに柳が「コラ」と短く小言を言った。幸村が腰を上げるように柳に視線を移した。
「蓮二、明日は集合が早い。今日は早めに部活を切り上げよう」
「ふむ、そうだな。弦一郎に伝えてくるか」
「頼まれてくれるかい」
「仰せのままに」
なかなか意地の悪い男だ、柳は何もかもお見通しだと言うように薄く微笑んだ柳がゆっくりと席を立った。慣れた手つきで手作りのお弁当を風呂敷に包み、教室を後にした柳の後ろ姿を見届けて幸村は呼吸に紛れて息を吐いた。
----夏が来る、あの熱い夏が。
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福原(プロフ) - ゆきもりさん» コメントありがとうございます❤︎そう言っていただけて光栄です(;_;)緩くではありますがぜひお付き合い下さい❤︎ (2022年7月29日 11時) (
レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ゆきもり(プロフ) - 第1話から心奪われました...恋が始まる予感....更新楽しみにしています^^ (2022年7月28日 14時) (レス) @page3 id: 1e05fd341a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：福原 | 作成日時：2022年7月28日 14時
