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第30話 ページ30

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「ごめん、すぐ返す、」

「気にしないで10円くらい」



手元に目当ての10円玉がないのだ、Aは用無しになった財布を胸に抱えた。


校舎と外との寒暖差に体が堪えたのかAの震える肩に越前が腕を伸ばした。「寒い?」と問いかけた越前にAは首を振った。


寒くはない、きっとこれは寒さではなかったはずだ。


首を振ったAに反して越前が微かに汗ばんでいることに気付いたAは態度に隠すことはしなかった。



「汗、かいてるけど」



越前はAから視線を逸らしてワイシャツの袖で頬を拭った。

真っ白なワイシャツが眩しくて目眩がした。走ってきたの?なんて聞けるわけがなくAは糊のきいたワイシャツを見つめるしかなかった。


越前が動かないAを不思議に思ったのか、自動販売機へと1歩動いて落ちてきたココアを取り出した。受け取ろうと手を伸ばしたAより、蓋を空ける越前の動きの方が早かった。

プシュ、と響く音が秋と不釣り合いだった。



「ほら」



蓋の空けられたココアと越前の顔を交互に見つめるAが相当面白かったのだろう、越前は肩を震わせながらAを見つめた。


「ふふ、」



あまりに越前が笑ったから、Aは思わず吹き出してしまった。そうだった、この子は。


声を漏らしながら肩を揺らしたAに越前は満足気に微笑み、Aの手に蓋の空いたココアを握らせた。ココアは幾分か冷たくなっていた。


越前の骨ばった手がAの華奢な手を包んだ。彼に触れられても不快にならない理由を私は知っていた。



「やっと笑った」



予鈴が鳴った。

越前の笑顔が消えてしまいそうなくらい綺麗で、鼻の奥がツンとした。このままこの手を離してしまえば、もう会えない気がした。


学生たちの声がどこか遠くに聞こえた。

まるで、この世界に私達2人だけのように。




もう会えない?Aはふと我に返った。

越前は別にAのものではない、Aに越前を縛る権利はなかった。越前の世界がAとは別にあることをAも痛いくらい理解していた。

Aにとって、越前の温もりは呪いでしかなかった。



「うん、」



今のAにはそれしか言えなかった。


全てを許容して、妥協して、受け入れることが出来るほど、Aは大人になれなかった。ただ、手に収まるココアの冷たさがAの体温を下げていた。




思い出した、彼という存在を、全て。





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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます‪‪❤︎‬ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時

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