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第12話 ページ12

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夏が来た。


猛暑は学校指定の制服を見に纏った学生たちを存分に苦しめていた。
Aもそのうちの一人であった。


猛威を振るう日差しと、息が詰まりそうな気温に飲み物を欲したAはお昼休みに自動販売機へと向かっていた。


自動販売機が冷たい、に埋め尽くされているのを見てAは気が付いた。そうか、もうこの季節か。
アイスココアのボタンを押して夏が来たことを改めて実感した。湿気でAの前髪が濡れたていたようだった。



Aはあ、と呟いた。
思い出した、彼との出会いを。

ここの自動販売機で10円足りなくて困っていた彼に私が10円貸してあげたんだ。彼は律儀だから、その借りを返してくれたのだとAは納得した。




「あれって越前くんじゃない?」

学食の方から女子生徒の話し声が聞こえた。Aのアイスココアを持つ手に力が入った。

そういえば、最近越前くんと話してない気がする。出番のない連絡先を今朝見たばかりだった。

夏休み直前本格的に受験を控えた3年生は多忙を極めていた。この期末試験で全てが決まる3年生たちはどこか殺伐としていた。Aもその例外ではなく、想像以上の忙しさに頭を抱えていた。それに比例するように、Aが越前に会うことも減っていった。



「越前くんカッコイイよね〜」

「やめなよ、越前くん竜崎さんのこと好きらしいし」

Aの動きが止まった。

自分の呼吸が不規則になったことに気付いていたのだろうか、思い出せなかった。
彼にも好意を寄せる人がいたのか。そっか、当たり前だ。彼は私よりも2つ下の学年で、私とは違う時間軸で生きているのだ。私が見る景色を彼が見ることはないし、彼が見る景色を私が見ることもない。

見ることもなければ、見れることもなかった。


「え?そうなの?」

「うん、ほら」


いつから彼と同じ景色を見ていると錯覚していたのだろうか、Aには検討もつかなかった。

温くなったはずのアイスココアが酷く冷たく感じた。



「リョーマくん!」


鈴の音が鳴るような、可愛らしい声が彼の名前を呼んでいた。腰近くまであるのだろうか、彼女の長い三つ編みが彼の名前を口にする度に揺れているように見えた。

言われなくても分かっていた、きっとあの子が。



Aは瞳を伏せて、中身の残ったアイスココアをベンチに置いた。




夏が来た、きっと、暑い夏が。




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福原(プロフ) - ぱーぷる姫さん» ありがとうございます‪‪❤︎‬ぱーぷる姫さんにそう言っていただけて光栄です( X_X ) (2月24日 1時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
ぱーぷる姫(プロフ) - 涙が溢れ出ました!あまりに綺麗で切ない表現に何度も読み返しました。ありがとうございました! (2月18日 15時) (レス) id: 4d7ac923b9 (このIDを非表示/違反報告)
福原(プロフ) - 幸絵さん» ご感想ありがとうございます(;_;)またどこかで2人が会える日がくることを願っています、、リョーマ!失恋組!初遭遇です!やはり初恋は実らないものですね、、 (2021年11月10日 9時) (レス) id: cc2ff694b3 (このIDを非表示/違反報告)
幸絵(プロフ) - 完結おめでとうございます!ついついヒロインの先輩と結ばれて欲しい〜って思ってしまいました。話は変わりますが、『劇場版リョーマ!』私も失恋した気分になりました! (2021年11月10日 6時) (レス) id: 4696a5fece (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:福原 | 作成日時:2021年9月17日 0時

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