オシロイバナの呪縛と、解毒薬 (ページ4)

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四枚目ページ4

いつも通り遅刻してくるしばゆーをいつも通り編集しながら待つ僕らは、他愛のない話を続けていた。

｢虫さん、今日は随分とご機嫌だね。何かあったの？｣

斜め前に座った伊達男がにやにやとしながら僕を見る。やめろその目。絶対になにかあるって確信して僕をいじろうとしてるんだろう。その意図が分かっていながらもちょっと動揺して顔に出てしまうのをやめたい。

｢まあね｣
｢なーにー！おしえて！｣
｢えーどうしようかな〜｣

パソコンの隣に置いてあったスマートフォンを操作し、緑のアプリを開く。そこにはあの彼女の名前と送られてきたメッセージが表示されていた。

そう、あの奇跡的にカフェラテをぶっかけられた日に咄嗟に連絡先を交換して、不躾にも取り付けたデート。その日が正に今日なのだ。今日の夜。心配要素だって撮影は長引くものも無さそうだし、なんなら夕方頃の撮影は僕は出る予定も無い。ありがたい限りだ。

｢スマホみてニヤニヤするのはもうわかるやん。
虫さんにも遂に女か〜！！｣
｢なになに、虫さんに彼女！？｣

ああもう、やかましいなあ。目に優しくはない髪色がずいずいとこちらに寄ってくる。いいだろう別に。もう二十の後半にもなってきたんだから、そういった関係の女性のひとりやふたり居てもいいだろう。

｢彼女じゃないよ、まだね｣
｢うわ聞いた今の！！『まだね』だって！！
なあとしみつどう思う、この人！！｣
｢まあいいんじゃない｣
｢彼女持ちに聞いても無駄でしょてつや｣
｢くっそ！リア充め！！｣

いくつになっても恋愛の話になると盛り上がるんだからなあ、こいつらは。楽しそうでなによりだけど。

｢おくれてごめーん！！！！｣
｢あ、しばゆー！聞いてよ虫さんがさー！！｣
｢ちょっと！！撮影するよ！！｣

＊＊＊

トイレの鏡で何度も身だしなみを整える。
前髪、崩れてないしうねってない、よし。ファンデも崩れてないし、リップも大丈夫。緊張より不安の方が勝っていて胃がふわふわする。これから抱えることになるであろう借金はいくらだろうか。そもそも生きて帰って来れるだろうか。

ああ、神さま仏さま、どうか私にお慈悲を！
と、祈りもさながら腕の時計が約束の時刻の十分前を指す。そろそろ出て先に待っていよう。遅れたら何があるか分からないし。

ヒールの低い靴で、なるべく姿勢よく約束の場所で待つ。夏なのに少しだけ肌寒い。ワンピースで来たのは失敗だったかもしれないなあ。刻一刻とその時が迫ってくる。