二枚目 ページ2
もう来ないで欲しいな、なんて思っていた時期が私にもありました。ええ。そんな不埒な事を思っていた事を知ってか知らずが、彼は毎日同じ時間に来るようになりました。ええ、常連と言ってもいいほどです。
七時頃に来店し、窓際のあの席に座り、頼むものは決まって特性カフェラテ一つ。あのパソコンでカタカタと何かしらの作業をしてから、このカフェを後にする。それが彼の朝のルーティーンになったようです。
バイトなら喜ぶべきでしょう。きっと。私は不埒なバイトですのでまるで喜べませんが。
ああもしこれでここが青年たちのたまり場になったりしたら。元々の常連さんが隅に追いやられて──
｢Aさん、これ持っていってください｣
｢すみません！｣
いけない、くだらない空想が頭の中で広がったもんだからつい考え過ぎてしまった。特性カフェラテを手に急ぎめでいつもの場所へと向かう。彼の今日の服装は白のシャツだ。柄シャツじゃないなんて、珍しいなあ。なんて呑気に考えながらも足を早めに動かして。
｢すみません、お待たせ致しまし、たｯ！？｣
ぐるり、視界が回転した。彼を真っ直ぐと確かに捉えていたはずの視界は九十度曲がって、特性のカフェラテがぶわりと浮いている。肝心の彼は目を丸くさせているのが、しっかりと目に入ってくる。
バシャン、パリン、カランカランカラン……
耳を塞ぎたくなるようなその音と衝撃に目を瞑っていた私は、恐る恐る瞼を開いた。
なんてこった。想定できる最悪の状況が目の前に広がっていた。私の目の前ではカップだったものの残骸が散らばり、裸足で歩けば傷だらけになることが安易に予想できる床になった。その床を見るに破片やらなにやらは彼には当たって無さそうだ。
宙を舞ったカフェラテは自らの着地点を彼の洋服と定めたらしく、見事に白のシャツが茶色に染まっている。幸いなことに、機械には何もかかっていなかった。が、しかし大切なのはその服である。
｢も、申し訳ございません！！！｣
直ぐに立って深々と頭を下げる。まずい、完全にやらかした。しかもお金持ちに。まずい、あの白シャツ絶対に高いに決まってる。洋服はシンプルな方が高いって相場が決まっているんだから。
やばい、弁償で百万とか言われたらどうしよう。そんなお金どこにも無い。ただでさえ生活がちょっと苦しいぐらいなのに。どうしよう、どうしたらいい、
顔が上げられなかった。体が震える。ああ、どうしよう。怖い。
｢あの、｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はなぶさ | 作成日時：2021年7月30日 22時
