08.ただキスをしよう ページ8
〇 謙杜
「私、謙杜じゃなきゃだめなのかもなあ」
滅茶苦茶な俺からの課題の、彼女なりの考えを話してくれて、それまで交わらなかった視線が交わったかと思ったら、最後に彼女はぽつりとそう言った。
『…なあ、ちゅーしてもええ？』
「へ？」
返事を待たずに、彼女の肩を引き寄せて顔を近づける。
少し長めになってしまったのは許してほしい。
…だって可愛すぎるから。
『俺もわからんよ、Aちゃんじゃなきゃあかん理由』
「え」
『こうやって手繋いどいてくれたら、それだけでええねん。ただ時々なんとなくな、あー好きやな〜！ て思って、今みたいにできたら』
「…うん、一緒」
『それ、なんて言うんか知っとる？』
ーーーー…愛おしいって言うんやで。
我ながら臭いこと言った！
すぐにでも顔を背けたかったけど、Aちゃんの表情がそれをさせなかった。
そしてなんとなく、俺も今同じような顔をしてるんだろうと思った。
話しながら握っていた手が、より強い力で握り返される。
「私にそれ気づかせたかったの？」
『ふふん、せやで？ やからケーキ買ってきたりとか、変な優しさ出してみたんよ』
「それもわざとやったんか…」
やられたー 顔を覆いながら呟くAちゃん。
まあ単に、悩む姿を見たかったっていうのもあるんだけど。それを言ったら怒られそうだから、こっそり閉まっておこう。
『Aちゃんの質問の意図はなんやったん？』
「んー、嫌いなところも全部引っ括めて、私は謙杜のこと愛おしいって思ってるけど。でも、怖いものと信じてるものって本人にとっては重大だけど、知っとかないと、無意識にやっちゃうかもしれないでしょう？ 謙杜が嫌いなものはしたくないなって、なんか急に思ったんだよね」
今日の彼女はすごく考えが大人びている。
新しい一面発見だから、これもこれでいいけど。
でも、"愛おしい"って口にした時、彼女が少し照れたのを見逃してはいない。
(…参ったなあ、ちょっと悪戯心のつもりやったのに)
『…俺の方がAちゃんじゃないとだめかもなあ、』
「私じゃなきゃどうするの？」
『うわっ、反則〜〜〜！』
また勢いよくぎゅってしてしまったけど、Aちゃんは笑いながら抱き締め返してくれる。
『ほんまに、そういうとこめっちゃ好きやで』
「じゃあ好きなところ10個教えてよ」
『むりや、わからんもん』
fin.
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作者名：あまいかさ | 作成日時：2022年5月8日 23時
