04.じゃなくてもいい理由 ページ4
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"俺じゃなきゃあかん理由10個考えといてな"
そういって、にやりといたずらっ子のように笑った謙杜が頭から離れない。
単に『好きなところ』でもなくなった。『謙杜じゃなきゃだめな理由』だ。
和「ほんで、今必死に考えてるんやな」
「そうなんです…」
和「Aちゃんの彼氏おもろいなあ」
ひゃっひゃっひゃっといつもの引き笑いで、これ以上ないくらい可笑しそうな顔をするのはバイト先の先輩の和也くん。
高校も同じだけど、謙杜とは接点がなくてお互い知らない。
休憩時間が被ると、いつもこうやっておしゃべりをする。
ちなみに和也くんにも彼女がいるらしい。写真を見た限りべっぴんさんで、前にどうやって捕まえたのか聞くと『俺からやないで？』ととびっきりのドヤ顔をかまされた。
「でもその日からどうもおかしいんですよ、謙杜」
和「なになに？」
「異様に優しいというか、付きまとってくるというか…」
和「アピールしてんのとちゃう？ Aちゃんはドキドキせえへんの？」
「いやあ…逆に無理なんです、謙杜が謙杜じゃないっていうか、優しさが謙杜の優しさじゃないっていうか」
和「…Aちゃんもなかなか面倒な性格してるんやな」
刺さることを平然と言う和也くん。
否定はできないけど！
「でもこの前なんか、いつもだったら頼まないと買ってきてくれないケーキを急に買ってきたんですよ。なんもないのに」
和「ええやんか〜」
「私は食べたい時に甘いものは食べたいんです！ 気分じゃないとのらないというか」
和「めんどいな(笑)」
「そうなんですけど…でも今まで謙杜はそれわかってると思ってたから」
食い違ってきてしまった。今までの居心地の良さと。
よほどしかめっ面をしていたのだろう。カシャッなんて乾いた音。和也くんのスマホが気づけばこちらに向いていた。
「やめてくださいよーもう！」
和「だって眉毛こんなんやったで？」
自分の眉毛を最大限引き攣らせてそういうから、思わず吹き出して笑ってしまう。
やっと笑ったーなんてにこにこ顔の和也くん。
そのうちに休憩時間も終わりになって、持ち場に戻る準備をした。
和也くんの彼女さんはとっても幸せなんだろうなとふと思う。
ただの後輩の私にも、こうやって悩んでいれば話も聞いてくれるし(ちょっとバカにしすぎだけど)、笑わせてくれる優しさがある。
でも、謙杜とは当たり前だけど全然ちがう。
こうしてみると、私に親切にしてくれる人はいっぱいいるのだろう。謙杜じゃなかったとしても。
(…やっぱり、やっぱりそうなんだよね、)
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作者名：あまいかさ | 作成日時：2022年5月8日 23時
