鬼の俺と人間の君が出会えた奇跡【うらたぬき】 (ページ10)

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奇跡が１０個ページ10

「行っちゃったね」

低く響く優しい声。
この人はきっと悪い人じゃない。
だけど、うらたにしか優しくしてもらったことのない私には、この人はまだ少しこわい。

「屋敷にもどろ……って」

そこまで聞いて私は屋敷に走り出した。
話す気もないし、近づくなんてもってのほか。
この不安な気持ちを収めることのできる場所は私には１つしかない。

私はうらたの部屋に入って毛布を頭からかぶった。

きっとあのそらるという人は、この部屋に私がいるなんて思わないし、ここから出てこなかったら自然と帰る。
それまで、うらたの匂いのするこの中でやり過ごそう。

＊＊＊

「あれ……？」

気づけば外は夕暮れの赤に染まっていて、時間がたっていたことが分かった。

「ねちゃったんだぁ」

大きくあくびをして、それによって目に溜まった涙を拭くようにゴシゴシとこする。
そして、頭からかぶっていた毛布をとって立ち上がった。

「うらた、かえってきたかも！！」

すぐ帰ってくるって言っていた。
だから居るかもしれない。
そんな、期待を込めて居間へと向かった。

「いない……」

そこには誰もいなくて、私はここに1人なのだと悟った。

「ふぇ……っ」

寂しい

なんの音もしない。
周りに誰もいない。

こんなこと慣れて居るはずだったのに、うらたに出会ってからこんなにも寂しがりやになってしまった。

「なんで泣いてんの？」

後ろから響く声に、ひゅっと涙が止まる。
そして慌てて逃げようとすると、抱きしめられた。

「やだぁ！はなしてっ！」

「いい加減逃げるのやめてよ。
……さっき寂しくて泣いてたんでしょ？」

耳元で心地よく響く声に、暴れるのをやめる。
怖いけれど、この声には逆らう気力を削がれてしまうのだ。

「いい子だね。
大丈夫だよ。うらたくんならすぐ帰ってくるから。
だから、それまで嫌かもしれないけど俺で我慢して？」

ね？と頭を撫でられて、その手の大きさに安心した。

この人は本当に私を落ち付けようとしている。
それにこの手はうらたと似てとても優しい。

私はそらるの目を見て静かに微笑んだ。