緑のたぬきさんに憧れて歌い手になったら、その人のことをもっともっと好きになりました。【うらたぬき】

たぬきが93匹 ページ49

「つ、疲れたぁ」

「あはは。お疲れ様、本城さん」

人のいなくなった店内でグダッとカウンターに身をまかせる私に、店長が爽やかな笑顔を向ける。

「今日は本当にお疲れ様。助かったよ。
明日はゆっくり休んでね！」

「いえいえ！店長もお疲れ様でしたー。
明日、本当にお休みもらってもいいんですか？」

大丈夫だよ。と笑う店長にすこし不安になりみていると、店長はニコッと笑った。

「大丈夫だよ！ほら帰った帰った！
店の鍵は僕が閉めておくからね」

不安になっていた私の背中を笑顔で押す店長。
そしてそのまま店外にだされてしまった。

「強引だなぁ……。店長がいいなら大丈夫かな？」

気持ちを切り替えて家に帰るために歩き出せば、見慣れた横顔が目の前を通った。

「あ、和ちゃん！」

「え、お姉ちゃん⁉今帰りだったんだあ」

綺麗な横顔に声をかければ、猫のように笑って駆け寄ってくる和ちゃん。
そして私たちはそのまま2人で歩き出した。

「今日遅いんだね？どうしたの？」

「え、っとちょっとプレゼントを買いに行ってたの」

「誰に？誕生日の人でもいるの？」

「誕生日ってわけじゃないんだけど」

言葉に詰まったように黙る和ちゃん。
その困ったように俯く赤い頬を見て、私はあ！と声を上げた。

「もしかして坂田さん？」

「うっ。そ、うだよ……？
なんか、最近よくプレゼントされるからそのお返し、的な？」

「わぁ！すごい！！仲いいんだねぇ」

「いや、多分あいつの気まぐれだと思うけど」

「ううん！そんなことな……っ」

「お、姉ちゃん？」

先ほどまでの笑顔と一変。
和ちゃんは私に不安そうな顔を見せた。

それはそうだろう。
後ろからの足音がずっと付いてきているのだから。
しかもいつもよりずっと距離が近い。

「和ちゃん。行って」

「え……？」

ひそっと耳元で言えば驚く和ちゃん。
そして、泣きそうな目で縋るように腕を掴んだ。

「なんで？ダメだよ！2人で」

「いいから。私は大丈夫だよ？すぐお家に帰るから、ちゃんと鍵かけて待っててね」

「で、でも！」


「和ちゃん、ごめんね？本当に大丈夫だから」

こんな短い会話でもどんどん足音との距離は縮まっているのがわかる。
その分だけ焦りが積み重なっていくように感じた。

「嫌だっ！一緒にかえ」

「行きなさいって！！」

今までより大きな声を出して、その背中をトンッと押せば、弾かれたように走り出す和ちゃん。

それと同時に私も和ちゃんとは別方向に走り出した。

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