Day 12 ページ41
どうしてわっくんがここにいるのだろう。
久しぶりのわっくんを見て、抱きつきたい強い衝動を押さえつける。
今の“私”は私じゃない。
そんな幼稚なことをして、五百旗頭を名乗ってはいけない。
私はにこっと微笑んだ。
幼い時から何度も何度も練習した、言ってしまえば営業スマイルを大好きな人に向けている。
「失礼いたしました。千景のお友達ですか？」
「は……？何、言って」
「千景、話は終わったのですか？」
戸惑いと驚きと、そして……強い衝撃を受けたような顔をする彼から目を逸らしたくて、私は千景にそう問いかけた。
「姉さん……はい。もう、お帰りになるとのことです」
「千景……？なんで」
眉を下にさげ、明らかに動揺している彼に微笑んだ。
情を見せるな。
彼を思うのであれば、今この瞬間は冷酷でなければいけない。
「そうですか。わざわざ五百旗頭家に足を運んでいただきありがとうございます。ですが」
口元に手を当てて、目を少しだけ細める。
これも幼い時から練習していた一つの形。
＿相手を注意する時の形
「我々、五百旗頭の人間は予定のない来客に門を通らせることはしません。
今後は二度と、このようなことをしないでいただきたい」
目を大きく見開いてこちらを見る彼に、心の中では謝り続けていた。
酷いことを言ってごめんなさい
何も言わずに置いていってしまってごめんなさい
＿私が“私”でごめんなさい
私は羽織を軽く直しながら、彼の前を通り過ぎ、門を通る。
「門を閉めなさい」
戸惑いを見せながらも門を閉める男の人たち。
当然だ。
今この家で最も高い位置にいるのは“私”なのだから。
どんどん狭くなってくる門と門の間。
そこに佇む大好きな人を横目に見て、私は玄関へと足を進めた。
「……から」
ぽつっと聞こえた小さな声は私の足を止めるには十分で、今度ははっきりと耳に入り込んできた。
「明日も来るから！
これで、予定のない来客にはならないだろ！」
そう言って、門は大きな音を立ててしまった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 245人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なつの(プロフ) - ゆらさん» ありがとうございます！拙い文章ですが楽しんでいただけたようでとても嬉しいです！ (2021年1月12日 8時) (
レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら - めっちゃ泣きました!!!文才が…もう…（語彙力） (2021年1月11日 22時) (レス) id: 178b398402 (このIDを非表示/違反報告)
なつの(プロフ) - 刹那@pdaoさん» コメントありがとうございます！そうでしたか！楽しんでいただけて何よりです。後進の方も頑張っていきたいと思いますので、これからもぜひお楽しみください！ (2020年7月17日 22時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
刹那@pdao - もうすでに布団がびしゃびしゃになりました(www)こういう類いのお話すごいすきなんです！ありがとうございます！ごちそうさまです！更新頑張ってください！！！ (2020年7月12日 22時) (レス) id: 3de1e2bdfb (このIDを非表示/違反報告)
なつの(プロフ) - WAIHA，AIRA:さん» ありがとうございます！これからも頑張っていきたいと思います！更新、ぜひ楽しみにしていてください！ (2020年4月28日 7時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なつの | 作成日時：2020年4月12日 16時
