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千景サイド ページ39

「千景さん!!」


小走りにこちらに走ってくる女の人を見て、僕は目を細めた。


「走らないで」


「も、申し訳ございません。あの、お客様がいらっしゃってまして」


「お客様?」


今日は来客の予定などない。
本来、五百旗頭家に訪問してくる者は事前に言わなければ、僕たちは門を開けることなどはしない。


「そんな予定はないよ。お帰りになってもらおう」


今は姉さんもいない。
僕1人の独断で、家に不要な人間を入れるわけにはいかないのだ。


「で、ですが、その」


「……どうしたの?」


口ごもる女の人に、僕は聞いた。
そもそも、予定のない来客を帰す、なんてのはこの家の常識であって、僕に聞くほどのことじゃない。


となればこの家に来たのは


「Aさんの彼氏さんがいらっしゃっていまして」


はぁ、とため息をついた。
姉さんの彼氏を不要な人間とは認識しずらいか。
自分の予想が当たっていたことに、僕は少し呆れた。


「分かった。僕が行くから、一応家には入れないで」


冷たい判断だとは思うけれど、家を任された身としてはこれくらいが丁度いい。


玄関に出て、門の外に行けば、たしかにうらたさんが立っていた。


少し肩が上がっているのは、急いできた証拠だろう。


「下がってて」


僕は門のそばにいた人にそう声をかけ、うらたさんと2人にしてもらう。
と言ってもすぐ近くに人はいるのだけれど


「それで?何しにきたんですか?」


「分かってんだろ。Aに会いにきた」


「姉さんはいませんよ」


「ふざけんな」


睨みつけるように僕を見るうらたさんに、どうしたものかと考える。
姉さんはきっと彼と会うことは望んでいない。


「……いますけど」


「じゃあ」


「察していただけませんか?」


言葉を遮るように言えば、不思議そうにこちらを見るうらたさん。


「あなたが五百旗頭家の門をくぐれるわけがないでしょう」


「……!!」


はぁ、とわざとらしくため息をつき、話は終わりだと背中を向けた。
これも姉さんに頼まれていたことだ。
うらたさんがきた時はできるだけ冷たく、彼が自分を諦めるように


「諦めねぇよ」


低めの声でそう言われ、思わず振り向く。
僕を見るその目はあまりにも真っ直ぐで


「俺があいつを諦めるわけがないだろ。
わざとらしい冷たい態度も、あいつの伝言も俺のためだって分かってる」


その瞳で心の奥底を焦がされてしまいそうだった。

・→←うらたぬきサイド



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なつの(プロフ) - ゆらさん» ありがとうございます!拙い文章ですが楽しんでいただけたようでとても嬉しいです! (2021年1月12日 8時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
ゆら - めっちゃ泣きました!!!文才が…もう…(語彙力) (2021年1月11日 22時) (レス) id: 178b398402 (このIDを非表示/違反報告)
なつの(プロフ) - 刹那@pdaoさん» コメントありがとうございます!そうでしたか!楽しんでいただけて何よりです。後進の方も頑張っていきたいと思いますので、これからもぜひお楽しみください! (2020年7月17日 22時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)
刹那@pdao - もうすでに布団がびしゃびしゃになりました(www)こういう類いのお話すごいすきなんです!ありがとうございます!ごちそうさまです!更新頑張ってください!!! (2020年7月12日 22時) (レス) id: 3de1e2bdfb (このIDを非表示/違反報告)
なつの(プロフ) - WAIHA,AIRA:さん» ありがとうございます!これからも頑張っていきたいと思います!更新、ぜひ楽しみにしていてください! (2020年4月28日 7時) (レス) id: 1923d39783 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なつの | 作成日時:2020年4月12日 16時

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