たぬきと絶対わかれてやる！！【うらたぬき】

センラサイド ページ23

センラサイド


「楽しかったー！」


「ほんまに歌い手活動したほうがええと思うんやけど」


「へ？なんで？」


きょとんとこちらを見てくるAちゃんに俺はため息をつく。
普段の様子からは想像できないが、実は彼女の歌唱力は凄まじい。
みんなに聞いてもらいたいと思うほどに。


「いいんだよ、そんなんやんなくて」


Aちゃんの頭にぽんっと手を乗せて俺を軽く睨むうらたん。
パーカーのことといい、普段の世話焼きといい、彼女のことになると嫉妬深い。


(どうせ自分の彼女を大勢に知られたくないだけやろ)


俺はまたため息をついた。


「綺麗だね」


「え？」


会話に脈絡がないのはいつものことだが、Aちゃんの様子とその先に映る景色を見てあぁ、と納得した。


「ほんまやね」


そこには花びらを舞い散らせる満開の桜があった。


しばらくそれを見ていると、不意に女の人たちがしゃがんでいるのが見えた。
何かの行事の後なのか彼女たちは着物を着ていた。


「何したんやろ」


「わからないけど……ちょっと行ってくるね！わっくん荷物持ってて！」


そう言うとAちゃんは女の人たちに近づいていた。


「何してんのやろ……」


「多分だけど」


一人でポツッと言った言葉にうらたんが答える。
俺はそちらを見た。


「着付けし直してるんじゃないか？
あとは下駄の鼻緒を直してるっぽいけど」


「は⁉着付けに下駄の鼻緒って」


そんなん素人にできるん？
俺は彼女に視線を戻して目を見開いた。


「ほんまやん」


彼女は女の人たちの帯や襟を直し、しゃがんでいた女の人たちの下駄の鼻緒も直していた。
ついでといった風に何やら女の人たちに話している。


「あいつの家ってかなり大きいのはお前も知ってるだろ」


「はい」


「名家なんだよ、着物の。
だから着付けはもちろん、自分で着物を作るし華道、茶道みたいな教養もある。
それらを仕事にしてるしな」


驚きしかない。
普段、あほな部分が目立つ彼女の意外な特技。


「人は見かけによらないんやね」


「ははっ！だろ」


にかっと自慢げに笑ううらたんを見て、本当に彼女が好きなことが分かった。


「あれ？どうしたの？」


軽く肩で息をしながら戻ってきた彼女に微笑みかけ、頭を撫でる。


「Aちゃん、すごい子やったんやねぇ」


「ふぇ？何のこと？」


「秘密」


俺がそう言うと、彼女は首を傾げていた。

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