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「A」
「あ、大丈夫ですよ!私が運ぶので早く紐結んじゃって下さい」
「...いや、そうじゃなくて」
部活が始まる前の時間。選手達はモップがけをしたり、バッシュの紐を結んだり。真新しいピカピカのボールから順に、早い者勝ちでシューティングが始まる。
ユナオンニが体育館のタイマーやコーンを用意してくれるから、この時間の私の仕事は水道でドリンクの用意をすることだ。
パッと振り返ると、そこにはジョシュア先輩が立っていた。
ジャグを用意していた私の元にやって来るもんだから、てっきりまた運んでくれるのかと思ったのに。
この間よりも深刻そうにしている彼は、今何を考えているんだろう。
「........どうかしましたか?」
ジョシュア先輩は二三度目を瞬かせると、小さく息を吐いた。
周りはザワザワしてるのに、二人の間にはやけに重たい静寂が流れる。
野球部の大きな掛け声も、体育館からのドリブルの音も。
全ての音がひとつひとつ、デクレッシェンドになっていく。
「......ハニんとこの子が、迷惑かけてないかなって」
一つ一つ。思い出を辿るように。
ジョシュア先輩は前のマネージャーさんの話をしてくれた。
彼は彼女がやめてしまった後に、初めてバックに潜むその人達の存在を知ったらしい。
当事者であるジョンハン先輩の元に真実が伝わることはなく、クプス先輩でさえ知らないまま。
自分が原因だと知った時に責任を感じるのはハニだから、黙っているしかなかった。ジョシュア先輩はそう言った。
2年生の中でも天使だなんだと騒がれるジョンハン先輩のことだ。彼のことを好きな女子は星の数ほどいて、それが原因で女子同士の争いが起こることも少なくはないんだそう。
「...何かあったら、僕を頼って欲しい」
「1年よりは頼りになると思うし」と続く言葉。
ジョシュア先輩はぷっくりとした涙袋を更に大きく膨らませると、ゆっくりとジャグを持って足を踏み出した。
「今度は守りたいんだ。必ず」
その声は、真っ直ぐと私の心に響いてきた。
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作者名:key | 作成日時:2021年1月5日 15時