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ぐっと手に力を込めて俯いていたら、いつの間にか先輩達はいなくなっていた。
あれで良かったのかは分からない。明日にはもっと酷いことをされるかもしれない。
それでもいいや、なんて思ってしまう私は大馬鹿者だろうか。
あの輝きを手放すくらいだったら、いくら傷ついても構わない。...そう思ってしまうのだ。
「A？お前、どうしたんだよそんな所で」
北棟の隅の隅。廊下の突き当たりの階段は、人目に付きたくない話をするのに最適な場所だ。
「...あ、いや、」
放課後特有のザワザワとした音達を耳が捉えると同時に、意識がフッと戻ってきた。
どれくらいここでぼーっとしていたんだろう。ホシはもう既に練習着に着替えていた。
「用終わったか？」
「あ、うん...今終わったとこ」
先輩達に呼び出された、なんて死んでも言えないから、部活前にちょっと用があるから先に行っててと言ってホシを一人で行かせたんだけど。
彼はどうしてここにいるんだろう。
「スマホ教室に忘れちゃってさ。取りに来てたんだよ」
私達の教室は比較的北棟の隅の方にあるから、中央階段を使うよりもこの隅の階段を使った方が近道になる。
それでも普段はあんまり使わないんだけど、よっぽど急いで戻ってきたのかホシの前髪は向かい風によってぐちゃぐちゃになっていた。
そんなに急いで来たホシの足音さえ、私の耳はキャッチしてくれなかったんだ。
「やべーと思って走ってきた」
「ばかだね」
「うるせ」
ひひっと笑った後、その笑顔はゆっくりと真顔に戻る。
「.........なんかあったか？」
なんでもないよ。
ホシは、気づかないでいてくれるはず。
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作者名：key
| 作成日時：2021年1月5日 15時
