15 ページ16
そうしてやってきたリハの見学。
あろうことか...なんていう奇跡なんだろうか、BTSが、来ているらしい。
配られた出演者一覧に乗っていたBTSの文字と、その横のFAKE LOVE、という文字。
何度も見直して目も擦って見たけどどうやら現実みたいだ。
心臓がドクドク波打って、暴れ回って、高ぶった感情を抑えるかのようにして御手洗に向かう。
夢みたいだ。本当にこんなことが起きるなんて。
有名なテレビ局のスタジオだからか、自動でつく電気に、水道も全自動だった。
自宅の錆び付いた水道なんかじゃなくてどこを見てもピカピカで、床ですら反射するんじゃないかってくらいに磨かれていた。
鏡の前で大きく深呼吸をして、緩む顔面を両手で叩いて気合を入れ直す。
今日は勉強しに来たのだ、ファンとしてやって来たのではない。
1人の練習生としてやって来たのだから、この大切なチャンスを絶対に無駄にする訳には行かない。
素敵なステージを目に焼き付けて、盗めるところはとことん盗んでやる。
よし、と外に出た瞬間、私は驚きのあまり数秒間フリーズしてしまった。
「...ひっ!」
声にならない叫びが出てきて、人間本当に驚いたらこんな風になるんだ、なんてよく分からない思考が浮かび上がったりもした。
私の視線の先の...ホビ、もといJーHOPEさんは、私の声に反応してくるりと振り向いた。
生のホビと至近距離で目が合ってる、なんて今にも気絶してしまいそうだ。
実物はやっぱり身長が高くて、すらっとした体型に整った顔。そして溢れんばかりのオーラが見に纏われていた。
JーHOPEさんは私の顔を見た後に、首にかかった練習生の名札を見て納得したかのように頷いた。
「君、練習生の子?」
待って、話しかけられてる。
そのにこやかな笑顔で私に話しかけてくれてるのだと分かった時、返事をするよりも先に涙が出てきた。
ずっと追いかけていた人を、初めて生で見たのだ。
こんなの泣かずにはいられなかった。
まだまだ私は弱小事務所の弱小練習生だし、JーHOPEさんみたいにダンスは踊れないけど、こうして同じ空間にいることが奇跡にも近いような感覚だったのだ。
JーHOPEさんは私の涙を見て驚いた様だったけど、直ぐにハンカチを取り出して渡してくれた。
本当は受け取れないですと言うべきだったのだろうけど、憧れの人からの優しい行為を拒むことなんて私にはできなかった。
淡い水色の綺麗な、丁寧に折りたたまれているハンカチだった。
843人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
てこゆの(プロフ) - ?めぃろ?さん» コメントありがとうございます!!(TT)お褒めの言葉嬉しいです!私も現実感を意識して作った物語なのでそう言って頂けて嬉しいです〜!! (2021年4月26日 17時) (レス) id: bebd489c5d (このIDを非表示/違反報告)
?めぃろ?(プロフ) - アイドル系の小説って、夢主が完璧すぎてどうしても引っかかってたんですけど、こういう現実的な小説を求めてたので、すごい嬉しいです。 (2021年4月26日 16時) (レス) id: a284f3be6e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:key | 作成日時:2020年5月12日 19時