さよならまでの間に *tatsuya.F* (ページ16)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:43,821 hit

＊16＊ページ16

「…別れよっか」

辰哉が返事をするまで

ほんの数秒だったと思う

けれど

息をするのもためらうほど

長い長い沈黙だった

「ん、そうだね」

まるで

ちょうど良かった、俺も思ってた

そう言っているみたいな

冷たい声

これを望んだはずなのに

鼻の奥がツンとして目頭が熱くなる

目の内側にじんわりと溜まっていく涙

溢れる前に、と慌てて口を開いた

「えっと…買い物、だよね？
午後は暇だし、行こうよ」

「あーいや、やっぱ欲しいもの、ないから」

「今、新作シーズンじゃないの？」

「ん、まぁ…そうだけど、もういいよ」

「そ…っか、そう、だよね」

…バカだ、私

誤魔化すように席を立つ

空っぽのラーメンの器を２つ

両手に持って片付けようとしたところで

辰哉がそれを制した

「俺、やる」

器を２つ重ねてシンクまで運ぶ

「A」

呼ばれて彼の方を向く

「ごめんな」

私を見つめるその表情は

ベランダから差し込んだ陽に照らされ

よく見えなかった

ただ

謝るその声はさっきの冷たいのとは違う

甘くて優しい彼の声だった