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沸騰する鍋の
膨らんでは弾ける泡をただ見つめながら
昨夜のことを思い出していた
まだお互いの熱が体に残ったまま
向かい合って横になる
足を絡めると
細いくせに男らしいその腕で
ぎゅっと抱きしめられ
汗で少しベタついた肌がぴったりくっつく
「あー落ち着くわ、なんか、安心する」
掠れた声で呟くと
「俺、一生このまんまでいいかも」
へらりと笑って目を閉じた
“一生”
あのとき辰哉の言ったこの言葉には
そこまでの深い意味はないはずだ
…だけれど
何もつけていないピアスホールに触れる
ずっと空いたままで虚しい
私は気づいてしまった
これから先も辰哉の隣にいる私を
想像できないことを
ガスを切った
ぐつぐつと無数に現れていた泡が
徐々に静まり返っていく
いつもの器を2つ並べて
そこにラーメンをうつす
辰哉好みの濃いスープがはねて
Tシャツにシミを作った
…私ってこんな派手な柄、
好きだったっけ
表面だけをティッシュで軽く拭いて
残ったスープの色は見ないふりをした
熱々の器を辰哉の元へ運ぶ
「お待たせ」
「うまそ〜」
私も器を運んでそのまま席に着く
湯気でメガネを曇らせた辰哉が
手を合わせるのを見ながら
これを食べたら、終わりにしよう
そう決めた
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作者名:Hoshi | 作成日時:2022年3月15日 17時