そういうの、ずるい。【二口堅治】

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‥




ついにこの日が来てしまった。

インターハイ予選決勝。相手は今年の春高出場校の烏野高校だ。
これまで全ての試合を観に来たけれど、ここまで緊張するのは今日が初めて。

試合が始まる時間よりもだいぶ先に着いてしまった、と思ったらロビーでバレー部のみんなと遭遇した。
最近はいつも見ているが、やはり集団でいると迫力が違う。




「A、来てくれてありがとう」

「ううん。応援してるからね、舞ちゃん」




うん、と笑う舞ちゃんはかわいいけど、どこか緊張している様子だ。
選手のみんなもいつもより雰囲気が固くて、きっと、わたしなんかよりもずっと緊張しているんだろうな。


一歩、前に出た二口くんと視線が絡まる。
彼との出来事が、頭の中で走馬灯のようにかけめぐる。
初めて彼を意識した瞬間から、今日まで。彼の様々な表情を見れたことはとても贅沢なことだ。

彼はおもむろに口を開いた。




「観に来てくれてありがとな」

「うん」

「……あー、っと」




視線を逸らしてから、もう一度。目が合えば熱が走った。




「絶対勝つから」

「…………楽しみに、してる」

「おう」

「ずっと見てるよ」

「ああ。ずっと見てて」




優しく微笑む二口くんにすこし安心した。

さっきまで緊張して水すら喉に通らなかったのに。今は、彼らの試合が楽しみで仕方ない。




*




公式ウォーミングアップが始まると部員の応援も始まって、相変わらずの迫力でびっくりしてしまう。
決勝戦だからか駆けつけている生徒は多くて、いつもより声援が大きい。OBも多くて少しだけ緊張してしまう。男の子が多いから埋もれないようにしなくちゃ。
彼らの調子は上々で、ミスは少ないように見える。昨年敗れたという烏野に、リベンジを果たしてほしい。

嗚呼、この試合を勝ったら全国に行けるんだ。大丈夫、大丈夫。みんななら絶対勝てる。
彼らはきっと、東京に行かなくてはならない存在だとわたしは信じている。


ライン上に両者が並ぶ。一瞬の静寂の後、笛が鳴った。

試合が、始まる。


首元で、小さな光が揺れた。




‥

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