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沸騰する湯、陶器やシルバーのぶつかる微かな音と穏やかな話し声。
ようやく口を付けたタルト・タタンは一口でも香ばしく甘く少しほろ苦く、クセになる深い味わいを口内にもたらす。
幸福を飲み込んですっかり気に入った新茶のカップを手に取れば、向かいに座る男は半分ほど減ったホイップクリームと苺たっぷりのショートケーキをまた一口頬張ったところだった。
先程さっさと去ろうとしていたショッピはコネシマと鬱に片腕ずつ捕まり、情報を寄越せと二人掛かりで店外へ連行された。
「トントンさんにも言うたのに…！」と若干の悲鳴と共に引きずられていった姿には合掌したが、久々に話したいこともあるだろうと傍観して見送った。
グルッペンも便乗すれば付き添う必要もあっただろうが、それよりも彼はデザートを優先したようだ。
『よろしかったので？』
「どうせ後で聞くんだ。今行く必要もないだろう」
『そうですね』
簡素な会話と共に透き通った橙色を喉へと流し、ガラス越しに窓の外へ視線をやる。
時折道を歩く通行人を眺め、休憩前に歩いた店や大通りを思い起こし、途中通った噴水の広場の光景を浮かべ、再度店内の空気を肌で感じ、そして、
『…いい国ですね』
Aにしては珍しく、ぼそりと抽象的な感想を零した。
思わず出たような小さな呟き、それに対する返答など何も求めていなかったが、しっかり拾った男は穏やかな眼差しでこちらを見つめる。
「お前の国だぞ」
『そう、ですね』
「ああ。まあこんなところで満足する気はないがな」
不敵に笑うとグルッペンは真っ赤な苺をその口に含んだ。
どんな国にも多かれ少なかれ問題はある。
実際日々仕事をするAにも良くわかっていたが、現状で妥協せず更に良い国を作ろうとする姿勢には共感を覚えた。
自分の目指すものは彼と違うと思っていたが、もしかしたら。
そんなことを考えながら、また香る湯気を吸い込んだ。
いやほんまめんどいんすけど。
誰も居ない路地裏で、ショッピは周囲を警戒しながら怠そうに告げる。
煙草の匂いが漂う中、長く煙を吐いたコネシマが再び口を開いた。
「サラっとでええって。すぐグルッペンに伝えた方がええのもあるやろ」
「大したモンはないっすよ。嗜好品扱う商人が増えてきたとか、北の方で傭兵の募集しとるとか、あと一部の国で皇族やら貴族同士の婚姻廃止したとか。ああ、南の方でいざこざ起きそうなんで、コネシマさんの好きな本の続きは当分入らんのちゃいます？」
最後に絶望の表情に変わった先輩を見て、ようやく後輩は小さくほくそ笑んだ。
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華凛(プロフ) - 1番最初から読んできましたが、このパートの78話目のgrさんのセリフに思わず胸がきゅんとしました。お体に気をつけて更新してください。楽しみにしてます。 (2019年7月4日 13時) (
レス) id: 1c6f67374d (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - マロウブルーさん» コメントありがとうございます。長いお話ですが気に入っていただけて嬉しいです！まだまだ続きますが、よければ今後もお付き合いいただければ幸いです！ (2018年11月18日 16時) (レス) id: bb8b65fc2e (このIDを非表示/違反報告)
マロウブルー - あぁ…何で綺麗で壮大で素晴らしい話なんでしょうか…あなたが神か…そうか…！いやもう、ずっと憧れです！追い付きたいと思うことすらおこがまし(殴)本当にこの話大好きです！影ながら応援しております…！ (2018年11月17日 23時) (レス) id: 75a1a6830c (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - この話が面白いのでシャオロンのファン辞めますさん» コメントありがとうございます。生きがいとまで言っていただけて恐縮です…！更新遅くて申し訳ないですが、今後とも楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2018年9月15日 20時) (レス) id: bb8b65fc2e (このIDを非表示/違反報告)
この話が面白いのでシャオロンのファン辞めます - 毎回楽しく読ませてもらっております。ぎすメモとともに私の生きがいです。無理せず毎秒投稿してください！(ネタです。すみません。健康に気をつけてください！更新待ってます！) (2018年9月15日 20時) (レス) id: 8c4421707f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：璃亜
| 作成日時：2017年12月1日 22時
