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鬱先生は何も言わないんですね。
曇り空の午後、談話室の端で二人になった際、なんとなしにAが呟いた。
鬱がふと視線を上げるが、彼女は未だ手元のページをめくっている。
オスマンの私物であるそれを遠目に眺めながら、彼は不思議そうに声を発した。
「何のこと？え、髪切ってへんよな？メイクも変えてないと思うし、あ、服？私服あんま買いに行けてへんもんな。誰かに言われた？」
『いえ、そうでなく』
「じゃあ何やろ」
『私とこの一連の騒動についてですよ』
彼女が回答を提示すれば、鬱はああ、となんともないように相槌を打つ。
「心配はしたけど、あの時はアレが最善やとAちゃんが判断して行った訳やし、実際上手くいった。僕らは手助けするだけやったから何も負担はなかったし、言うことなんてないやろ」
『そうですか』
「…シッマに何か言われたんか。僕のこと無責任って思ったん？」
『いいえ。むしろよくご理解いただけているなと』
パタリと本の背表紙を閉じ、鬱の目を見つめ返す。
珍しく真正面から真摯な瞳を向けられれば、眼鏡の奥は苦笑を浮かべた。
「わかっとる、かなぁ。そうやったら嬉しいけど」
『ええ、十分に。ご自身の感情や立場よりも私の心情や思惑を優先して考えていただいたようで、大変ありがたく思っております』
「そんな大層なもんやないって。もし反対やったら多分止めたと思うし」
『…止めませんよ、貴方は』
「…何でそう思うん？」
静かに、しかし未だ微笑みながら問う男。
女も同じ表情を浮かべながら答える。
『貴方ならそれによってどうなるか、すぐに想定もできると思いますから』
鬱に対するAの評価は、女性好きで仲間内でいじられ、無能と呼ばれる人間などではない。
誰よりも空気に敏感で人の心情をよく見ており、その上で事実と状況を把握・想像することに長けた人間だった。
帰ってきてから様々な人と話したが、以前アステールで会った時と同様、自分の行動と理由、それに伴うある程度の感情までを一番察していたのは鬱だ。
そしてそこに彼の個人的な感情や思考は入らない。
常に斜に構えて俯瞰した目で見渡す男は、恐らくあの時も冷たく感じる程に冷静かついつも通りの態度だったのだろう。
Aの一言にきょとんと目を丸くすると、鬱はへらりと締まりのない笑みでおどける。
「今日のAちゃんめっちゃデレるやん。でもまだ知らんことも山程あるから今度デートしよな」
『シャオロンさんも同席でお願いします』
「え！？二人は嫌なん！？」
急に声を上げた男に、女は今度は少し可笑しそうに微笑んだ。
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華凛(プロフ) - 1番最初から読んできましたが、このパートの78話目のgrさんのセリフに思わず胸がきゅんとしました。お体に気をつけて更新してください。楽しみにしてます。 (2019年7月4日 13時) (
レス) id: 1c6f67374d (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - マロウブルーさん» コメントありがとうございます。長いお話ですが気に入っていただけて嬉しいです！まだまだ続きますが、よければ今後もお付き合いいただければ幸いです！ (2018年11月18日 16時) (レス) id: bb8b65fc2e (このIDを非表示/違反報告)
マロウブルー - あぁ…何で綺麗で壮大で素晴らしい話なんでしょうか…あなたが神か…そうか…！いやもう、ずっと憧れです！追い付きたいと思うことすらおこがまし(殴)本当にこの話大好きです！影ながら応援しております…！ (2018年11月17日 23時) (レス) id: 75a1a6830c (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - この話が面白いのでシャオロンのファン辞めますさん» コメントありがとうございます。生きがいとまで言っていただけて恐縮です…！更新遅くて申し訳ないですが、今後とも楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2018年9月15日 20時) (レス) id: bb8b65fc2e (このIDを非表示/違反報告)
この話が面白いのでシャオロンのファン辞めます - 毎回楽しく読ませてもらっております。ぎすメモとともに私の生きがいです。無理せず毎秒投稿してください！(ネタです。すみません。健康に気をつけてください！更新待ってます！) (2018年9月15日 20時) (レス) id: 8c4421707f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：璃亜
| 作成日時：2017年12月1日 22時
