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空が明るみ、遥か遠くから僅かに射し込む光。
未だ冷え込む空気と夜明けを告げる鳥の声。
街中が、国中がまだ目を覚まさない静けさの中、中心地のこの場所だけは、変わらず物音と人の声と焦燥に駆られていた。
見張り台に立つ兵は、その高さからあちこちの地表を目を凝らして見渡す。
手元には遠くまでよく見える双眼鏡、先日その良さを理解してもらい予算が下りた最新型だ。
もしもあの方が逃げて来られたら、真っ先に自分が発見して保護しなければ。
非常事態につき働き詰めの上層部のために、使用人も少しでも力になれるよう世話を焼く。
温かい飲み物を入れようとキッチンに立ったメイドは、テキパキとそれぞれの好みを用意しながら人知れず唇を噛んだ。
これもこれもこれも、あの方から教えていただいたことばかり。
交代で眠るよう指示されても、二段ベッドの上で身体を丸めて考えるのは、あの時の必死な表情と張り上げられた声。
もっと自分が強ければ、もっと他に人手があれば、もっと早く仲間に伝達できたら、…あの時初めて直接出された命令に逆らえたら。
あの方は今、ここにいたかもしれないのに。
張り詰めた緊張感と重苦しく漂う空気の中でそれぞれが考えるのは、この国から攫われた一人の幹部のことだった。
総統秘書である彼女が攫われたのは夕方前、それから一夜明けてしまったが、本人からも敵国からも、未だ何も音沙汰はない。
Aはとっくに、この国の総統秘書の地位を確立していた。
一人で、エーデルと二人で、第二外交官や補佐官といった外交官室のメンバーだけで。
時に内部と、あるいは外交上で、弁を立たせ策を練って孤独に戦っていた時とは違う。
今では多くの兵が、使用人が、仲間が、彼女を総統秘書として認め、頼っていた。
それだけのことをやってきた、それだけの信頼を、それだけの居場所を。
アステールではなく、我々で、彼女自身さえも気がつかないうちに、いつのまにか作っていたのだ。
だが、その彼女は今この城内のどこにもいない。
その事実に一番影響を受け、神経を尖らせたのは、言わずもがな関わりの多かった幹部達だ。
必死に敵国と攫った男を探す者、窓の外を眺め後悔に苛まれる者、煙草の煙を吸い込み自分を落ち着かせようとする者。
反応は様々だったが、全員に共通して言えることは、誰しもがいつもよりも静かすぎた。
Aは決して賑やかなムードメーカーではない。
それなのに、いつも騒ぐ者ほど大人しく、口数は減る一方で。
静かすぎる城内は、あまりにも彼らには似合わなかった。
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華凛(プロフ) - 1番最初から読んできましたが、このパートの78話目のgrさんのセリフに思わず胸がきゅんとしました。お体に気をつけて更新してください。楽しみにしてます。 (2019年7月4日 13時) (
レス) id: 1c6f67374d (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - マロウブルーさん» コメントありがとうございます。長いお話ですが気に入っていただけて嬉しいです！まだまだ続きますが、よければ今後もお付き合いいただければ幸いです！ (2018年11月18日 16時) (レス) id: bb8b65fc2e (このIDを非表示/違反報告)
マロウブルー - あぁ…何で綺麗で壮大で素晴らしい話なんでしょうか…あなたが神か…そうか…！いやもう、ずっと憧れです！追い付きたいと思うことすらおこがまし(殴)本当にこの話大好きです！影ながら応援しております…！ (2018年11月17日 23時) (レス) id: 75a1a6830c (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - この話が面白いのでシャオロンのファン辞めますさん» コメントありがとうございます。生きがいとまで言っていただけて恐縮です…！更新遅くて申し訳ないですが、今後とも楽しんでいただけるよう頑張ります！ (2018年9月15日 20時) (レス) id: bb8b65fc2e (このIDを非表示/違反報告)
この話が面白いのでシャオロンのファン辞めます - 毎回楽しく読ませてもらっております。ぎすメモとともに私の生きがいです。無理せず毎秒投稿してください！(ネタです。すみません。健康に気をつけてください！更新待ってます！) (2018年9月15日 20時) (レス) id: 8c4421707f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：璃亜
| 作成日時：2017年12月1日 22時
