【wrwrd!】とある社畜外交官の憂鬱２

96 ページ46

城内案内の後に向かったのは書記長室。
今後はここでトントンに仕事や国の情勢を教わることになる予定なのだが、入った途端に目に入ったのは書類の山だった。
机に山積みに置かれているそれはかつてAが処理していたものより遥かに多い。
一国の書記長ともなれば城のほぼ全ての書類が集まるのだろう。
Aは以前から密かに彼のことを社畜仲間だと思っていたのだが、これでは一緒にするのがおこがましい気もしてきた。


「あ、くそ、また増えてる。…いや、まあしゃあない、今日は置いといてええって言ったしな…」

そう呟きつつもトントンの口から出るのはため息。
教わる云々よりも、まずはこれらを片付けるのが先決だろう。

『大してお役に立てないかもしれませんが、よろしければお手伝いします。ひとまず分類して整理しましょうか？』
「え？ありがたいけど悪いわ…今日は初日やし軽く流れとかルールとか話して終わる予定やったのに」
『ご迷惑なら下がりますし、トントンさんの方針に従います。ただ、もし可能なら整理しながら内容を軽く拝見できればと。総統秘書を務める以上あらゆる内情を把握しておかないと困るでしょうから』

情報は最大の武器であり防具である。
外交官時代の自身の経験に則って発言すれば、トントンは少し考えた後申し訳なさそうに了承した。






カリカリと響くペンの音、パラパラとめくる紙の音。
無機質な、しかし彼らにとっては聞き慣れた音が鳴り続ける静かな部屋で、トントンは何枚目かわからない一枚を完成させると顔を上げた。

「…A、ほんまに書類仕事得意なんやな」

目の前の書類の山はかなり小分けにされている。
一番手が届きやすい所には期限の迫っているものがまとめられ、その隣以降は各部隊、もしくは同じ案件や関係する案件のものなどで山が分けられている。
一番上の一枚を見ればどれが何かわかるようになっていて、思わず感嘆の息を吐いたトントンに少し離れたソファーに座るAは手元を動かしながら答えた。

『以前は外交以外の仕事もいくつか回されていました。会談の時間はどうしようもないので、残りの短い時間の中でいかに処理するか考えている内にこうなっただけです』
「いや、これはありがたい。ほんま助かる」
『良かったです。…後で構いませんので、いくつか内容について質問しても？』
「全然ええよ。なんなら今書きながら答えるから何でも聞いて」

そう笑うトントンの方がよっぽど書類仕事が得意そうだった。

97→←95

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す