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お泊まりセットは部下が頼んだのかと問えば、鬱が自分から申し出て買いに行ったと言う。
幹部自ら行くとは恐れ入った、と言うか正直驚いている。
「急な泊まりやし寝とったから何も用意できてへんと思ってな。他の奴らはそういうとこ気がきかん奴ばっかりやから僕が行っただけや。他にもいるもんあると思うけど、日も暮れたからそれは明日でもええかな?」
『はい、ありがとうございます。お忙しいのにわざわざすみません』
初対面は軽薄そうだと思ったのだが、実は気がきく人のようだ。
それか女性の扱いに慣れているのだろうか。
普通はスキンケア用品なんて思いつかないだろう。
「全然暇やったし気にせんでな。あ、よかったら明日一緒に街行かん?足らん物買うついでに案内するで」
そう微笑む鬱だが、勝手に街を出歩いていいものだろうか。
保護している状態でうろつかれるのは微妙な気がする。
『ええと、では許可が降りたらお願いしてもいいですか?お時間は合わせますので』
「あー許可かー…取らなあかんかなぁ?」
『わかりませんが、鬱先生をお借りする訳ですし、いきなり姿を消すと余計なご心配をおかけしてしまう気がして』
「どっちかと言うと僕がAちゃんを借りるんやけどな。まあ多分ええって言うやろ。後で頼んどくわ」
ゆっくり休んでな、と言い残し鬱は去って行く。
再び一人になった部屋、いつの間にか窓の外は暗くなっていた。
なんだか少し空腹を感じていると、バタバタとこちらへ走ってくる足音。
そのまま勢いよくノックされ、何事かと扉を開ければ慌てた様子の鬱が立っていた。
「ごめん飯呼びに来たの忘れとった!」
鬱と二人で廊下を歩く。
クスクスと響く笑い声に鬱はこちらに情けない表情を向けた。
「そんな笑わんといてよ…」
『すみません、なんだかおかしくって』
どうやらお泊まりセットはあくまで鬱の好意で用意してくれただけであり、本題は夕食の知らせだったらしい。
だがまさか本題を忘れてしまうとは、しかもあんなに慌てて戻ってくるとは。
失礼とはわかっているが笑いが溢れてしまう。
『この数分で鬱先生のイメージが少し変わりました』
「えっ!?それあかんやつやん!絶対悪く思われとる!」
『いえ、いい意味ですよ』
笑うAにほんまに…?と疑いの目を向けてくる鬱。
本当ですよと微笑めば、きょとんとした後へにゃっと崩れた笑みを浮かべた。
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ゆう - メンバー同士の掛け合いもリアルでテンポよく、話の構成もしっかりしていてとても読み応えがあり面白いです!言葉の選び方や設定まで凄く丁寧で尊敬します。小説として面白く、それでいて『リアル』を崩す事なく描かれていて凄いと思いました。 (2019年8月4日 23時) (レス) id: 7c238edc15 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - もちえもんさん» コメントありがとうございます。沢山のお褒めの言葉、嬉しいです!書きやすい方と掴みきれていない方でどうしても差が出てしまうのですが、なるべくいろんな方と絡めるように頑張ります。 (2017年5月18日 2時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
もちえもん(プロフ) - 恋愛一色ではないのにこんなに好きになった小説は初めてです。メンバーと仲良くなっていく過程が早すぎず、自然で素晴らしいです!キャラが掴めていて、言葉遣いが上手で尊敬します。今後とも楽しみにしておりますm(_ _)m (2017年5月17日 23時) (レス) id: 801b233da8 (このIDを非表示/違反報告)
璃亜(プロフ) - 那月さん» コメントありがとうございます。読みやすいですか…!ありがとうございます!話の進みは遅いですがよかったら今後とも見ていただけると嬉しいです。更新も頑張ります! (2017年5月16日 13時) (レス) id: 97b5822f0b (このIDを非表示/違反報告)
那月 - 夢主ちゃん苦労人ですね;´`文面もきちんとしていてとても読みやすく、面白いです…!!昔ほど酷くないですが未だにやや男尊女卑の所があるのでそこも共感して読めます。これからどのように夢主ちゃんが戦っていくのかとても気になります。更新頑張ってください(*´-`) (2017年5月16日 3時) (レス) id: 329c4228b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:璃亜 | 作成日時:2017年4月30日 2時