桜の涙 15 (潤) ページ30
智Side
潤が慣れない環境と慣れない人たちの間で苦しんでいることは、これまでの状況を聞いてわかっていた。
だから今は、時間が許す限りそばにいよう、って…
少しでも緊張を解く空間にしてあげられたら…って。
握りしめられていた拳を開いて自分の手を重ねてあげていると、徐々に表情が変化してくる。
『楽』じゃなく、『苦』に変わっていくんだ。
僕らの前ですら隠されていた苦痛が、ようやく表に出せるようになってきた。
辛いんだね…
いいんだよ、痛いって言っていいの。
翔「ごめん、ちょっと…」
そんなときだった。
翔がPHSを手に廊下に出ていった。
呼び出しかな？とも思ったけど、すぐに戻ってきたところをみると簡単な確認か何かの連絡だったのかもしれない。
智「ありがとうございました、先生。また今度うちに…」
翔「あーごめん。すみません…」
外科病棟に戻るという先生にお礼を言って見送ろうとしたとき、またしても翔のPHSが音をならした。
頭を下げながら僕と先生の間を通ってドアノブに手をかけると、廊下に出ることなくその場でピタリと足を止める。
翔「…CPA？」
一言つぶやいて振り向いた翔は、迷いなく潤に視線を向けた。
『またくるよ』
応答を続けながらも小さく微笑んで見せた顔には、きっとそんな一言が込められている。
松「行け」
智「行って」
僕らに移された視線に、二人の声が重なった。
素早く頭を下げた翔が部屋を飛び出していくまで、あっという間の出来事…
ベッドの上に視線を落とすと、潤は揺れた目でゆっくりと閉まっていくドアを見つめていて…
次の瞬間には胸を拳で押さえていた。
智「どした…？気持ち悪い？」
目を固く閉じながら小さく唸る潤に駆け寄り、肩を撫でてあげながら口元に容器を寄せる。
患者さんの急変…翔はもう、しばらくここには戻ってこられない。
そのことは、きっと潤もわかっているんだろう。
潤「おれ…ちょっと…寝てもいい…？」
智「眠たい？吐き気は大丈夫？」
松「痛みはどうだ？寝られそうか？」
問いかけの後、少しの間をあけて小さな声が耳に届く。
予想外の『ありがとう』って感謝の言葉…
潤「きてくれて…ありがとうございました…」
質問には答えないまま、つぶやきながら僕らから視線を外した。
それはきっと、『もう帰っていい』という意味で…
深い皺を眉間に寄せ、閉じた瞼を震わせるその姿に、僕は胸が苦しくてしばらくその場を動くことが出来なかった。
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ちさ(プロフ) - 琴子さん» こんばんは琴子さん♪ いえいえ！お忙しいなか温かいコメントを、本当にいつもありがとうございます。夏のような暑さになったかと思えばここ数日は冷たい雨…体がおかしくなってしまいそうです。今回から新Partに移行しましたので、あちらでもよろしくお願いいたします (2019年6月8日 23時) (
レス) id: 2f0afe0567 (このIDを非表示/違反報告)
琴子(プロフ) - 朝早くにすみません。ご無沙汰しています。メッセージ最近は特に送れずすみません…m(_ _)m 雨の季節になりましたね。今夜の更新を楽しみにしています♪♪♪ (2019年6月8日 7時) (レス) id: cc1132a1bd (このIDを非表示/違反報告)
ちさ(プロフ) - 翔さんさん» こんばんは、翔さんさん。今回は小児科医和先生の温かさが出せたら良いなと思って書いていましたので、そのように言っていただけてとても嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました！ (2019年5月4日 21時) (レス) id: 2029d5744d (このIDを非表示/違反報告)
翔さん - 和にぃの優しさが伝わってきました＾＾令和最初に良い話が読めました！ (2019年5月3日 8時) (レス) id: 4771dff308 (このIDを非表示/違反報告)
ちさ(プロフ) - rabbitさん» こんばんは、rabbitさん。やっとですね〜。一度甘えられれば、この後はずーっと和にぃにベッタリだと思います(笑) ニマニマして読んだ、は最高の褒め言葉です、ありがとうございます！次回もまた楽しんでいただけたら嬉しいです (2019年5月2日 19時) (レス) id: 2029d5744d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちさ
| 作成日時：2019年2月10日 22時
