【実ｼ兄者】【ky】触覚は生きている (ページ14)

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楓の葉ページ14

-kiyo-

終わった。

Aさんは、泣きながら走り去って行って、俺はそれを追いかけず、ただ立ち尽くすだけだった。

冷たい風が吹く。枯れ木に一枚、弱々しくぶら下がった楓の葉が揺れる。

もともと俺にAさんの彼氏になる資格なんてなかったのか

それとも、告白のタイミングを間違えたのか

どっちにしろ、もうAさんとは上手く話せそうにない。

楓の葉が、力尽きて落ちた。

「帰ろ」

今日はもう、誰にも会いたくない。

俺は小走りで帰路についた。

頬に汗が伝う。これは汗だと俺は言い張る。

家に帰り、自室に戻る。制服も脱がずにベッドに横たわる。

もう外は暗かった。このまま寝てしまおうか。食べ物も喉を通らなさそうだ。

意識が遠のいていく。

ベッドに体がのみ込まれていく。

「…？」

暗い天井。ほんのりと光を放つデジタル時計には、[AM.2:32]と表示されていた。

早い時間に寝たせいで、変な時間に起きてしまったみたいだ。

頭が痛い。ベッドに戻って何度寝返りをうっても寝付けない。

帰り道のどうしようもなく誰にも会いたくなかった気持ちが、今はひたすら誰かに会いたい気持ちに変わっていた。

誰かに会いたい。声が聞きたい。

ただ、話したい。明日の学校の話でも、新発売のゲームの話でも、なんでも良かった。

＜まだ起きてる？＞

＜起きてるけど＞

無意識に文章を送っていたのは、こーすけに向けてだった。しかしなんでこんな時間に起きてるんだ。

＜なんか話そうぜ＞

＜いいけど、何話す？＞

こーすけは、こんな真夜中にも関わらずいつもと変わらないテンションで話してくれた。

＜この間、駅前にケーキ屋できたのキヨ知ってる？＞

＜女子かよ笑、知らね、美味しいの？＞

＜ヒラと一緒に行ったけど美味しかった＞

＜まじかー、行ってみてー＞

そんな会話をだらだらしていると、時間はもう四時を過ぎていた。

＜もーそろ寝るかー＞

＜おやすみ＞

そう言って携帯の電源を落とし、目をつむった。

もう一度、意識が遠のく。

今度は、ゆっくり安心して眠れた。

そしてまた、今度は明るい天井。時計には[AM.6:30]の文字。

俺は、今までで一番大きく元気な声で、朝の空に向かって叫んだ。

「おはよう！！！！」