九十五人目のハグ ページ4
アズールside
『アズール先輩、おはようございます！ 今日はよろしくお願いします！』
目の前で笑顔を浮かべるAさんから目が離せない。
何度もシミュレーションをしてきたというのに、Aさんはそんな努力を簡単に水の泡に変えてしまう。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
『モストロ・ラウンジの新メニューにつながるようなアイデアが見つかるように、目を凝らして頑張りますね！』
力強く腕まくりをしてみせるAさん。
本当は、市場調査なんて建前で、純粋に貴女とデートをしたかっただけなんですよ。
ただ、断られるのが怖くてそう誘っただけ……本当に僕は臆病者だ。
『わぁ、綺麗！ 森がモチーフのカフェでしょうか？』
「そのようですね、椅子やテーブルも木でできています」
『空気が澄んでいて居心地がいいですね〜』
「……Aさんは、海よりも森のほうが好きですか？」
『海のほうが好きです！ だからモストロ・ラウンジに行くといつも安心するんですよ』
そんなこと言って、海に連れ帰ってしまいますよ？
深海で貴女と二人っきりで過ごすのも、悪くないですね。
『見てくださいこのメニュー表！』
「これは……興味深い書き方ですね」
『期間限定メニューを導入して、反応を見たりするのを取り入れるのがいいかもしれませんね。評判が良ければ、値段を少し上乗せして常時メニューにしても売り上げは安定させられるかと』
言い出したのは僕ですが、真剣に考えてくれているんですね。
もし最初からデートとして誘っていたら、どんな反応をしてくれたのでしょうか。
「それは考えたことがありませんでした、是非取り入れてみましょう」
『これでモストロ・ラウンジがますますみんなに愛される場所になるといいですね！』
「Aさんはそうなってほしいんですか？」
『当たり前です！ だってアズール先輩の努力の結晶ですし、こんなに素敵な先輩が経営しているんですもん！ 学園内だけじゃなくて、もっといろんな人に知ってほしいくらいですよ！』
貴女はまた……泣きたくなるじゃないですか。
今日はスマートにふるまうって決めてたのに、すべてさらけ出してしまう。
こんなことなら、最初からデートとして誘っておけばよかったですね。
よく考えたら、貴方が僕の誘いを断るはずがない。
次は最初から貴女をデートに誘います。
その時は今日以上に楽しませますから、僕の手を取ってくださいね？
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作者名：冥界の女王 | 作成日時：2023年5月28日 15時
