【elder】…1 ページ6
彼が私の呼び方を変えた日を
今でも覚えてる。
私が中学2年で、彼は中学1年だった。
学校の廊下ですれ違って
何か話をして、
最後に別れるとき
呼ばれるはずの自分の名前は
別のものにすり替わっていた。
それが始まり。
愕然とした、とか
そういう感じはなかった。
ただ腑に落ちなかった。
しこりのようなものが
胸の奥につっかえて、
そこからもやもやと違和感が生まれた。
ただそれだけ。
小学生から中学生になると
途端に子ども内の関係性は変わる。
高校2年も半ばを過ぎた今ならそれがわかる。
だから、
彼もそうだと思った。
幼少から変わり者として通ってきた彼でも
そうなんだ、と。
違和感を押し隠して、
私はそう自分を納得させた。
これはごく当たり前のことなんだと。
けれど、
今になって彼は、違うと言う。
丸めた教科書でこん、と側頭部を叩くと、
いて、となんとも可愛らしい声が返ってきた。
いや、騙されちゃだめ自分。
彼は全部分かったうえで、
茶目っ気を全面に出しているんだから。
A「寝てたでしょ」
慧「や、寝てない寝てない」
A「嘘ばっかり」
かくっ、と首が落ちる瞬間を
ばっちり目撃されたにも関わらず、
彼は持ち前ののんびりした話し方でのらりくらりと言葉をかわした。
悪びれもせずに小さく欠伸をしながら、
ひょいと指を持ち上げて
顔横の教科書をとんとんとノックする。
慧「あのー、
そろそろどけてほしいんですけど」
A「だめ。
またすぐ寝ようとするでしょ」
慧「まあ…否定はしない」
A「…否定しなさいよ、そこは」
やれやれ、と溜め息を吐く。
彼のノートの上の問題は
5分前から一向に進んでいない。
でもそれまでに解いた問題は
殆ど一発正解。
ちゃんとやれば、出来る子なのに。
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作者名：環
| 作成日時：2016年10月17日 20時
