ポプリ...a short story... (ページ27)

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【Promise】...1 ページ27

明け方まで降っていた雨が、
綺麗にあがった日曜日の朝。

ドアを開けたら、彼が居た。

A「………けいと？」

私はひどく驚いてしまったわけで、
それが何故かといえば、
十数年前から話し始める必要がある。

私がまだ、
走るのも辿々しかった頃の話。

岡本圭人君は私の家のお隣に住む岡本家のご子息さんだ。
私の家と彼の家は、彼が生まれる前からお付き合いをさせていただいている。

彼が生まれた時、私も親にくっついて赤ん坊の彼を見に行った。
真っ赤な色をして眠る彼に
まだ、泣きボクロはなかったと思う。

眠る彼に手を伸ばすと、目も開いていない彼は私の人差し指を力強く握って凄い力で離さなかった。

『赤ちゃんはね、手や足に何かが触れると握ろうと指を曲げるんだよ』

驚いている私に母親が言った。

『手を離す、とか、やめる、とか、あきらめるってことを、まだ知らないの。だから、出来ないの』

その指を一本一本丁寧に外しながら、
私は弟が出来たような気持ちだった。

毎日のように、彼に会いに行った。

彼が初めて私に『好きだよ』と言ったのは、
彼がまだ幼稚園生の頃だった。

私は彼ほどではないにしろ、まだまだ子どもで、
でも誰かに好かれているということが嬉しかった。

それなのに、大人の真似事をしたがって。

優越感を隠そうともせず、
その言葉を真似て私は断った。

次の年。
自分の背中よりも大きいピカピカのランドセルを背負った彼は、もう一度私に『好きだよ』と言った。

今度は返事を言う前に走り去ってしまった。
たった今、私と話していたかと思ったら、
もう次の瞬間には興味がすぐ移っていて。

実際まだ子どもだった私もその一言をいつまでも気にしているということは無く、
精一杯、自分の世界を手探りに広げていた。

彼は一年に何度かやって来ては
一言『好きだよ』と告げ、
何事もなかったかのように去っていく。

小学校4年生の時、彼はものすごく神妙な顔をして来年から外国へ行くと、そう言った。

出発の日、彼は大きな荷物を片手に一言
『Aちゃん好き！』と
涙でぐしゃぐしゃの顔で笑って、そして、

お隣はとても静かになった。