ポプリ...a short story... (ページ17)

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【embrace】…1 ページ17

目を開ける。

唇に残る感触は、
間違いなく目の前の男のそれ。

動揺もしなければ、
何の感情も湧かない。

キスの一つでいちいち気持ちは揺れ動くはずもなかった。

唇と唇と重ね合わせる、

ただ、それだけのこと。

そこに愛はあるのか、とか、
そんな幻想はとっくの昔に捨てた。

好きじゃなくても、
愛していなくても、

人は唇を重ねることが出来るし、
身体だって重ねられる。

涼介「家、行ってもいい？」

見つめ合った後、
目の前の彼はそう言った。

先ほどまでの荒い吐息と打って変わって、規則正しい寝息が後ろから聞こえる。

外はまだ暗いのに。
寒くて目が覚めてしまった。

いくら冬が過ぎたと言っても、何も身につけず布団に包まるにはまだ寒い時期。

しかも肝心の布団は隣の男が大部分を持っていってしまった。

一応私のベッドなんだけど。

そう思って思い切り布団を自分の方に引いた。

んー、と言いながら涼介がこちらの方に身体を向けて、また寝息は規則正しく刻み続けられた。

乱れた布団の間から見え隠れする胸元を見て、先ほどまでのことを思い返す。

家に来るまでの流れも、
ベッドへもつれ込むまでの所作も、

随分と手慣れていたな。

というのが正直な感想。

この腕の中で、一体何人の女性が夜を明かしたんだろう。

涼介と距離を取って、再び目を閉じる。

私は、と言えば確かに興奮はしたけど、
そこに感情はなかった。

快楽は、感情ではない。

初めて誰かと一緒に朝を迎えた時、
その時の私は何を思ってたっけ。

もう思い出すこともできない。

忘れたんじゃない。

捨て去った。