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確かに、バイトを辞めるのだからもう必要ないのだけれど…
彼は知っているのだろうか。
このバッジが、アルバイト達の中ではわりと重要なアイテムであるということを。
最初は単純に引き継ぎの意味しか持っていなかったそれは、誰が始めたのか、卒業式の第二ボタンのように特別なものに変わっていた。
好きな人、憧れの人からバッジを貰いたい。
お世話になった人、これからも頑張ってほしい人にバッジを渡したい。
それぞれの想いを運ぶバッジ。
もしも大貴が私にバッジをくれる、などと言い始めた日には大声でラブソングでも歌いながら街中を闊歩することも厭わない。
それほどの威力を持つバッジを、
この目の前の彼が私に寄越すと言う。
侑李「大貴の代わり。」
確かに、大貴はまだバッジを使っているし、今後その時が来たとしてもバッジをもらえる可能性は限りなくゼロに近い。
私が誰かのバッジを手にするには、侑李のものを貰うのが一番だ。
仮にも彼氏であるわけだし。
A「……じゃあ、店長の代わりにもらってあげる。」
我ながら可愛げのない言葉。
侑李だって、このバッジの意味を知っているのなら私ではなく店長に手渡したいに違いない。
それでも私にあげよう、というのは、彼なりの気休めでもあるのかも知れなかった。
私たちはお互いに、
お互いの代わりなのだから。
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作者名：環
| 作成日時：2018年11月3日 16時
