75…(side Y) ページ26
side>＞＞Yuya
「…俺にはさ、おまえ、逃げたようにしか見えねんだけど。」
そう言うと、Aは怯えたような表情をした。
しまった。
怖がらせてどーすんだ。
とりあえず落ち着いてもらおうと、軽い調子の声を出して誤魔化す。
雄也「あ、いや、Aを責めたいわけじゃなくて。
あの…そうじゃなくてさ、」
言葉を濁した俺に、Aが涙を拭うのを止めた。
その様子に気付いて苦く笑い、
数年前に経験した自分の話を口にする。
雄也「カッコ悪くて誰にも言ったことねーけど…俺もさ、聞くのが怖くて不安になったことあるよ。」
A「雄也、が？」
雄也「そ、俺が。」
辿々しい言葉のAに目を合わせて頷いた。
雄也「相手の行動も分かんねーし、理解できねーしで一人で空回りしてさ。
でも聞けなかった。
気になんのに、答えが自分の想像通りだったら、って思って、なんかずっと聞けなかった。」
数年前を思い出し、
未だ胸に感じる痛みに思わず笑った。
今、思い出しても痛いとは。
俺も相当、傷が深いみたいだ。
だけどあの頃の傷が、Aの役に立つなら。
そう、思うから。
疼いた傷に目を背けて再び口を開いた。
雄也「最後の最後に、聞いたわけ。
俺の他に付き合ってる奴いる？って。」
A「……うん、」
雄也「そしたらさ、“ごめん、言えなくて”だって。
最初っからずっと浮気相手だったんだわ俺。」
ああ、まじでカッコ悪ぃ。
自嘲気味に笑いながらAを見れば、拭うことなく涙を流す姿。
やれやれ、と腕を伸ばし、雑に頬を拭った。
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作者名：環
| 作成日時：2018年8月26日 15時
