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それは同じくして、私の傷がちっとも癒えていないことを意味するようで、またじわり、と淀みを広がせる。
じめっとした空気を滲ませる梅雨前の廊下は湿気臭い。
ついに静かに降り出した雨が窓を叩き、
私は伊野尾君の隣から歩き出し
教室に入っていった。
電気が点いていても薄暗い教室は、人のざわつきすら気持ち悪く感じる。
窓際で床に座り込んでいるあいつの声と、
その前でしゃがみ込んでいる翼の笑い声も、
肌触り悪く、纏わりつくようで、
その景色を視界にも入れずに目を伏せた。
慧「Aー、」
教室の入口から私を呼ぶ伊野尾君の声は、
湿気た空気を一掃する風のようだった。
不機嫌に伏せていた目を向けると
その先で伊野尾君は、
灰色の雲間から差し込む、陽の光のような笑顔をしていた。
慧「俺ら、付き合おっか。」
しん、と教室は水を打ったように静かになる。
周りの人たちと同様に私も驚く。
この教室にいて、
今程あいつの存在を忘れたのは初めてだった。
ほんの一瞬、伊野尾君はちらりと奥のあいつに目線を変えて交じわせる。
けれど直ぐにまた私に目線を戻して、
人懐こい笑顔を見せた。
こんな、ふわふわ柔らかくて、
何を考えているか分からなくて、
だけどこんな、
私を底からすくい上げるような笑顔。
きっと、今のあいつには出来ない。
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作者名：環
| 作成日時：2018年7月8日 10時
