2人の短いお話 その2

・ ページ6

俺が、命よりも愛しいと思う人だ。

藤ヶ谷が何か隠しごとをしているかなんて、俺にはすぐ分かる。



「上層部は、この殺人事件を隠蔽するために、徹底的に情報を漏らさないよう躍起になってる。

…なあ北山、何で俺のパソコンからデータを盗んだんだ？」


諦めたように話す恋人に、俺は近付いて唇を重ねた。
発砲した後の焦げた臭いの中でキスをしたことなんて無かったから、何だかドラマみたいだな、と呑気に思ってしまう。


発砲音に慌てて部屋に入ってこようとした二階堂を視界の端に捉えると、目配せして大丈夫だと伝えた。
二階堂は、粉々になったパソコンを確認して呆れた顔で去って行った。



「上も公安は、まだお前の存在には気付いてない。
俺のパソコンからデータがコピーされて、お前が勝手にこの事件を調べてる、って分かったとき、生きた心地がしなかった。

だから、データを消しに来たんだ。
このまま調べ続けたら、確実にお前は消される。頼むから、北山…っ」


小さな形の良い唇に、言葉を塞ぐようにキスを繰り返すと、藤ヶ谷は観念したようにそれを受け入れた。

だから、頼むからこの事件から手を引いてくれ。

藤ヶ谷の痛いくらいの想いが俺には伝わっているのに、それがまるで手錠みたいに俺の動きを拘束する。


「やだよ」
「…北山っ」
「俺は、ただ、面白いものを見たいだけだよ。誰かを助けたい、とかそんな理由じゃない。真実が知りたい。誰かが隠したものを、血の海から取り上げてやりたい」
「馬鹿…」


馬鹿で良いよ。
俺なんか、ただの探偵だ。

いつどうなってもおかしくない。
それを明るみにして、誰かを救うのが藤ヶ谷だろ。


ぽろぽろ、と泣き出した藤ヶ谷の涙を舐めると、やっぱりそれはしょっぱかった。


「俺が守りたいのは、北山なんだよ…っ」
「うん、知ってる」


俺の肩に顔をうずめて、まるで子供みたいに泣く藤ヶ谷の頭を撫でても、泣き止む気配はない。


「でも俺が守りたいのは、藤ヶ谷じゃない。俺が守りたいのは、真実だけだよ。だから、俺は調べるし、見つけるまで、俺は手を引かないよ」


残酷だろうか。
自分の命よりも惜しい存在なのに、俺は素直に真実を知りたいと思ってしまう。


「分かってるよ…馬鹿…っ…うっ…ぐすっ」
「でも、俺は別れようとは思わないからな。好きだぞ、藤ヶ谷」
「う゛う゛〜！わかってるよ！」


お前が守ってくれるんだろ、俺のこと。


だから俺は、いつでも何処へでも行けるよ。

熱→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す