2人の短いお話 その2

・ ページ19

「同窓会かぁ。面倒くさそうっすね」



３つ下の玉森も、同様にアラサー独身街道を走るような男で、気を遣わなくて良い性格もあり、よく2人で飲みに行くことが多かった。




いつものように2人で居酒屋でグラスを交わしている中で、同窓会の案内が来た、と何気無く話すと、玉森は先ほどのように言い放ったのだった。





「やっぱり？タマもそう思う？」
「別に今更会いたい人もいないですしね」





俺だったら行かないっすね、と玉森は枝豆をポリポリと頬張った。





「で？ガヤさんは？
会って気まずい女の子でもいるんすか？」
「別にそういうわけじゃえよ。ただ面倒なだけ」
「うわ、怪しい。
絶対高校の時何かあったでしょ？」




何かあったでしょ？



何か、と言われれば、あったと思う。
あった、あったよな。




あれを無いことに出来るなら。
俺はこんなに胸にわだかまりを抱えてはいない。




「そんなアンニュイな顔浮かべちゃって。
絶対ガヤさん何かあった。絶対行った方良いっすよ！」




�茲をほんのりと赤らめた玉森に、同窓会のことを口走ったことを後悔することになるとは、この時は思ってもいなかった。



_____




「はあ…」
「ちょっと！さっきからため息何回ついてんの」
「俺、タバコ吸ってくる」
「ちょ、太輔っ」




同窓会当日。
憂鬱な気分を拭えないまま渉に連れ出され、同窓会の会場へと足を踏み入れたものの、どの輪に入ってもほとんど嫁の愚痴、家族の愚痴なのだ。


左手の薬指に何の輝きも無い俺は、そそくさと会場の外に出て、タバコを吸いに逃げた。




「はー、かえりてぇ…」




吐いた煙がぼんやりと溶けて行く。

何となく左手をかざして見ても、あの金属の輪っかに一体どんな効力があるのか、１つも理解出来ない。

二次会など行く気はさらさら無い。
さっさと抜けて玉森にとことん付き合って貰おうと、玉森の連絡先をタップした。





『もしもーし』
「お疲れ、お前今どこいんの？」
『んー、家ですけど。
あれ、ガヤさん同窓会中じゃないの？』
「もういい、帰る。
今からお前んちに酒持って行くわ。付き合えよ」
『ええー？元カノは？』
「だから元カノなんていねえよ、馬鹿」




玉森の呑気な声に、知らずに緊張していた体がほぐれて行く。




『はいはい、迎えに行きますよ』
「まじ？助かる、じゃあ今出るわ」




「ふじがや？」




「…っ、」




俺の名前を呼ぶその声に、全身が一瞬にして強張るのが分かった。

・→←同窓会

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す