2人の短いお話 その2

同窓会 ページ18

「きーみはぁ、くーるだろうか…あーしたの、くーらすかいに…」



半分に折り曲げた案内をもう一度見る。




満員電車に揺られて通勤するようになって約10年の月日が流れた。

アラサーと言われる年代に部類されながらも、同期よりも抜きん出た役職に就いている。
それは恐らく俺が未だに独身貴族で、残業、休日出勤、地方への転勤、それらに全てYESと答えてきたからだろう。




♩ー♩ー♩ー





チラ、とスマホを確認すると、そこには『横尾 渉』と今でも連絡を取り合う唯一の友人の名前が表示されていた。





「もしもし」
『あ、太輔？今大丈夫？』
「うん、さっき家帰ってきたところ」
『明日のことなんだけど、』




ぼんやりと渉の声が右から左へと抜けて行く。

数年前に結婚し、この前2人目の女の子が生まれた親友は、会うたびに顔付きが変わっていっているような気がする。

父親、という俺が背負う事のない肩書きを背負った渉は、久しぶりに友人に会える同窓会を心底楽しみにしているような口調だった。






『だからね？分かった？』
「ん、はいはい。分かってる」
『ったく、ちゃんと聞いてたのかよ』
「だから、肩身が狭いんだよ。
職場の同期と飲みに行ってもお前は自由で良いな、なんて嫌味聞かされても楽しくないわけ」
『太輔の気持ちもわかるけど！
とにかく明日ちゃんと来いよ！』




じゃあ、おやすみ！
一方的に切られた電話に無意識にため息が出た。



______



行きたくない。



案内状が届いたその日のうちに正直に渉に連絡をすると、絶対に来い、とうざったい程の執拗なメッセージが連日届いた。

結果俺が根を上げて参加することになった訳だけれど、重い腰はなかなか動こうとはしなかった。





こんなんだったら、明日無理にでも出勤すれば良かった…



来月に控えたプロジェクトの最終プレゼンの資料を仕上げたい、と上司に言うと、同窓会なんだろ？と満面の笑みで休日出勤の申し出を断られた。



同窓会の予定を知る唯一の人物である後輩の玉森をジロリと睨むと、玉森は素知らぬフリをして席を立った。

慌てて追いかけると、玉森は優雅に缶コーヒーを飲んで俺を待ち構えていた。




「おい！お前、同窓会のこと言っただろ」
「ええ？
俺はただ、藤ヶ谷さんっていつも休日出勤してて、同窓会とかあっても欠席しちゃうんですかねぇ、って言っただけですよ」





余計なお世話だっつーの、と軽く頭を小突くと、へへっ、とイタズラな笑みを浮かべた。

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