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歪んだ世界の中で、眼鏡をかけた彼だけが、正しい道を知っているように見えた。



「藤ヶ谷さん」

「はっ、はい?え?」


俺に話し掛けられて、あまりにも焦って椅子からずり落ちた姿は、今でも笑える。


「あの、今晩暇ですか」

「は?え?ぼ、僕ですか?」

「そうです、藤ヶ谷さんの予定」

「え、あ、空いてます」

「じゃあ待ち合わせして、ご飯でも」

「は、はあ」


眼鏡をいつも少しだけずれ落ちている。綺麗な通った鼻筋から、その眼鏡をさらいたくなる。


____


「あの、玉森さん、は」

「玉森で良いし、敬語じゃなくて良いって、もう3回目だよ」

「す、すみません。あの、僕とご飯食べて、その、え、っと。

美味しいの?」


きょとん、とした顔に、精一杯絞り出された質問が、まるで何も知らない子犬みたいに見えた。母性本能をくすぐられるとは、このことだろうか。


「美味しい、って、何それ。美味しいよ」


ふ、と笑うと、俺の笑顔に安心したのか、眼鏡の奥の切れ長な目が少しだけ柔らかくなった。


「良かった。美味しいよね、うん」


そのとき彼を初めて連れて行ったのは、確か少し高めの蕎麦屋で、眼鏡がまたずれ落ちながら、蕎麦を美味しそうに頬張っていた。


____


「玉森さあ、最近、よく隣の部署行くよね?女でも出来た?」


同僚に聞かれて、初めて気付いた。そんなに無意識に俺は彼の元に行っていたのか。


「気になる奴がいるの」

「へえ。今度、紹介しろよな」

「考えとく」


欲しいものは、望めば手に入ったような気がする。
成績も、彼女も、他人からの評価も。

けれど、たまに足を踏み外したくなる。
周囲が作り上げた自分の姿から、どこか遠くへ。


____



彼を見つけた時、汚れた通りのアスファルトに、綺麗な咲いている花を見つけた時のような感覚だった。

隣のオフィスに書類を届けに来たものの、休憩時間が自分のところが違うことを、多忙過ぎて忘れていた。

急用だったので、すぐに捺印が必要で、困っているときに、彼はガランとした静かなオフィスの窓際のテーブルで、ひとり昼食をとっていた。


「あの」

「はっ。はい?」


俺が近付くと、椅子から転げ落ちるくらいビクッと体を揺らして、眼鏡をかけ直した。


「すみません、急用で。確認の捺印を押して頂きたくて」

「あ、は、はい。ちょっと、待ってください」


彼だけが使っていたテーブルの上には、美味しそうなお弁当が広がっていた。

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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年4月16日 21時

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