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「ただいま」



がちゃ、と扉を開けた。


返ってくる声は無いけれど、みゃーお、と甘い鳴き声が足元からする。


「寂しかったか?」


んー、と顔を近付けると、小さな舌が俺の鼻を一生懸命に舐めた。



____


決まってしまえば早いもので、自分の会社に近いアパートの契約を決め、住所変更等の手続きを迅速に済ませた俺は、次の週末にはあの部屋を出た。


北山がいつものように外出したのを確認すると、平日に運びきれなかった荷物を友人の車に乗せ、自分のキーケースから鍵を抜いた。


それをじっ、と見つめるようにテーブルに猫がやって来た。


「ごめんな。お前ともさよならだよ」


北山の飼い猫だと言うのに、勝手にこいつが住み着いたと言って、まるで世話をしないから、俺がこの猫の面倒を見るようになった。


みゃー

差し出した人差し指を甘噛みされた。


「・・・一緒に行こうか」


言葉が通じたのかどうかはわからないが、すとん、と俺の肩に飛び乗ったその重みのおかげで、俺は部屋を潔く出ていくことができた。


____


北山の連絡先も消して、違う部署に配属された今、あの部屋がどうなっているのかも分からないし、北山がどうしているのかも分からない。


記憶を頼りにあの喫茶店に行こうとしたが、どうやっても辿り着くことは出来なかった。

途中で必ず迷ってしまうのだ。


あの店員にお礼を言いたいのに。


「なあ、ミヤチカ。


あの店、何処にあるんだろうな」



肩に乗っている小さな猫は、名前に反応するように、綺麗な黒い毛並みで、俺に頬擦りしてきた。



「そうだね。

そろそろ帰ろうか」





______

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たいやき(プロフ) - 藤北目当てで読んだのに、『春』が1番好きで、何度も読み返しています!!あまり玉ガヤのBLは意外と読んだことがなかったので新鮮だったのと、『春』の藤ヶ谷くんがどたいぷすぎました。これからも頑張ってください! (2019年10月13日 1時) (レス) id: 2edd79c1bf (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - まきさん» コメント頂いていたのにお返事遅れてしまい大変申し訳ありません(*_*)! 短編の方で思いついた時にでも書いていこうかと思っておりますので、是非楽しみにしていただけると嬉しいです!コメントありがとうございました! (2018年10月22日 17時) (レス) id: 05aff8376d (このIDを非表示/違反報告)
まき(プロフ) - 初めてコメントさせて頂きます。以前に一回読んで、また読みたくなってしまい、読み返しました。とてもかわいい藤ヶ谷さんを見れて、楽しく読ませて頂いてます。『春』の続編を勝手ながら期待しております。 (2018年9月19日 11時) (レス) id: 0555875bff (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 白雪さん» コメントありがとうございます!私の中で藤ヶ谷さんは受けだと思っていて笑 北藤、玉ガヤ大好きなんです笑 そう言っていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - わたリンさん» コメントありがとうございます!お返事遅れてしまい大変申し訳ありません( ;∀;)!春の続編いつか書きたいと思っておりますので、楽しみにしていてください! (2018年8月5日 13時) (レス) id: 99aac380a8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2018年4月16日 21時

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